第9章 過去 その3
晴雄は力を入れ、いかり肩の様になっていた肩の力を抜き、「ふぅ」と、ため息を付きながら、こう言った。
「どうやらお前が過去に行かなければ、この銀河の現在は成り立たないらしい。信じ難い事だがな」と、頭を抱え込むように椅子に座り、ひじを机の上に付いた。
「うん。まあそれはありがたい事だけど・・・。それよりさっき俺が聞いたことはどうなんだよ。
俺は許可があろうと無かろうと、過去の地球に行くつもりでいたからな、許可がどうのこうのという問題より、俺にとってあのリギュンで、おやじがディスクをどうしようとしたのか聞きたいな」と、
雨雄は許可の事などうれしくも無いといった風で晴雄に聞いた。
「そうだな、お前に過去に行く許可を与えた以上、伏せておく必要は無いな」と、ポツリと独り言のように言うと、「うん」そうだなと、一人うなずき納得し、そして今度はきっちりと雨雄の方に顔を向け、こう切り出した。
「あの日・・・、そう、お前がかあさんと一緒に輸送船アコーニィ号に乗っていてASGUの駆逐艦から攻撃を受けた日・・・だな。
俺は手に入れたばかりのリギュンに夢中になり、銀河の縁を飛ばしていた。
そこにUSGからの連絡だと言って、時空局の副局長から連絡が入った。
それは輸送船アコーニー号が襲われていると言う事だった。
ちょうどその時、あのディスクをリギュンで見ていた所だった」と、そこまでゆっくりと、思い出すように話しだした。
「それじゃあ、おやじはデータを全部見たのか」と、雨雄は思わず身を乗り出しそう聞いた。
「そうだな、青い蝶のあざの所まで見た。20世紀に来ると良くない事が起こる。と言うところまではな」
「だから俺を、タイムマシンから遠ざけていたんだな」と、雨雄は腕をたくし上げ、その腕にある青いあざを見た。
「今では、お前をタイムマシンから、遠ざける事も意味が無くなったがな。
そこまで見た所でアコーニィ号の連絡が入った。
俺はすぐ見るのをやめてディスクを入れたまま、現場に向かった。
しかしワープを抜けた途端小型の宇宙船と接触し、そのショックでディスクを入れていたプレーヤーが傷み、ディスクが出なくなった。
無理に出した時にはディスクのデータも傷ついていた」と、そこまで言って、「これが俺の知っているディスクの話だ」と、これ以上は何も無い、と言った風に両腕を広げて見せた。
「なあおやじ。その、20世紀に来ると、云々の所だけどなぁ、正確にはよからぬ事じゃないのか」
「えっ!」と言う顔で暫く晴雄は考えていたが、
「そうだったかも知れんな。だがいずれにせよ雨雄が行くと、よくない事が起こると言う事だろうが」と、晴雄が言うと、
「おやじは最後まで記録を見ていないのでそう思っているだろうがな、俺が過去に行かなきゃ、俺たちは存在しないらしい所があってな、だから俺は無性に行きたくなったし、行かなくちゃあと、使命感さえ持ち始めてるんだぜ」
「雨雄が使命感に燃えるか」と、少々苦笑いしながら「まあ、お前も一人前の感情と言うか、言葉を使えるようになったのか」と、こう続けた。
「なんとでも言いやがれ!とにかく、おやじや他の時空局の連中が止めようと俺は行くからな」と、捨て台詞をはいて、雨雄は部屋を出て行った。
残った晴雄はやれやれといった顔で、「無事に何事もなく帰ってくりゃ良いが・・・」と、呟いた。