第9章 過去 その2
「そうだよ、だから20世紀の地球に行って来たんじゃないか」と、右手を胸の前から体の前に差し出し、行って来たのだと言うしぐさをした。
「そうだな、過去に無断で渡航した事は、病院でお前たちを待っている時、時空局の方から連絡を受けていた」と、呆れ顔で雨雄の顔を見た。
「そうさ、ちょっと行って来てやったよ。これからもう一度行こうと思ってる」と、さらりと言った。
晴雄の顔が見る見る内に険しくなり、
「誰が行かすものか、これからリギュンを時空局の管轄下に置き、お前には指一本触らせない」と、言った時である。晴雄の机にある時空監視室直結のインターホンが、けたたましい警報とともに、監視室長の声が聞こえてきた。
「局長、大変です!たった今時空変動警報が鳴りました。レベルはレッドです!至急こちらにおいで下さい」と、わめき立てたが、直後監視質のざわめきが聞こえ、再びインターホンから室長が、
「そこでお持ち下さい、今、えっと、・・・」と、ちょっとしどろもどろになった。
「なんだ、どうした、何がどうなった」と、晴雄は椅子から立ち上がり監視室の方に行こうと机を回り、机の前から中腰の状態になったままで、インターホンに向かい、室長の様子に異常を感じ、怒鳴り声を上げた。
暫くしの間監視室の方で、場所はそれで良いのか、時間は、などという監視員と監視室長のやり取りが聞こえた後、
「局長。そこでいったい何があったのですか。異常を知らせる監視機は、時空間のゆがみがその部屋から発生していると知らせています。
そこから発生した波動が20世紀の地球に影響し、さらに現在の銀河全体にも影響を及ぼしています」と、インターホンから室長が報告してきた。
「それは何時からだ、正確に言ってみろ」と、インターホンに晴雄がそう聞いた。
いや正確にはインターホンの向こうにいる室長に聞いたのだが、晴雄はインターホンを抱え込みしゃべっているので、まるでインターホンその物に問い掛けている様に見えたのだ。
「はい、ほんの数分前。突然です」と、言うと、先程の質問をもう一度聞いてきた。
「いったいその部屋で何が起きたのです」
「ふむ・・・」と、晴雄は考え込んだ。そして「まさかな・・・」と、つぶやくと雨雄の方を向いて、こう言った。
「時空局の正式の許可を与える。過去に行ってもいいぞ」と、言って再びインターホンに向かって、
「どうだ、警報は消えたか」と、インターホンの向こうの室長に聞いた。
許可が出た雨雄は「ぽかん」と、した顔で晴雄とインターホンをかわるがわる見ていた。
インターホンからは、「はい!たった今までこの銀河の過去が崩壊する程の警報が出ていましたのに、今は警報が出る前の穏やかな状態に戻りました。
一部を除きクリアされました。 異常なしです」と、正常に戻った事を伝えてきて、インターホンは切れた。