第9章 過去 その1
ジャンルをファンタジーからSFに移しました。
「どさ!」
雨雄が時空局の晴雄のオフィスにあるのソファに、体を投げ出すように座り込んだ。
ソファの前には小さなテーブルが置いてあり、対峙して向かい側にもソファがあるが、晴雄は部屋に入ってソファには座らず、自分の机の椅子に座った。
病院から帰り、いったんは家に三人で帰ったのだが、晴雄が雨雄に話がある、と言って時空局の晴雄の部屋に来るように言っておいたのだ。
座り込んだとたん雨雄は、晴雄が呼び出したにもかかわらず、こう切り出した。
「おやじ、何かおれに隠し事をしてないか、と言うより、俺に言わなきゃいけない事を、最初から無い事にしようとして、隠滅しようとしなかったか」と、問いただした。
「お前に隠すようなことなんて、これっぽっちもありゃしないよ」と、小指の第一間接の所を親指の先で指し、雨雄の方に見せた。
「今度、古い宇宙船をガジャドで見つけたんだけどな。その船の名前をリギュンと言うんだが、おやじその名前に覚えが有るだろう」と、雨雄がどうだと言わんばかりの顔で言うと、
「その事でお前をここに連れてきた」と、晴雄は何も堪えない様子だったので、雨雄は「おや」と思った。
「さっき病院でお前たちを待っている時にだな、時空局の方から連絡があってな、お前がそのリギュンで過去に渡航したという連絡を受けた。
そこで渡航理由を聞く為に、お前をここに呼んだわけだがな」と、ここまで言った所で晴雄は、一息付きさらにこう続けた。
「お前には常々、過去に行ってはいけないと厳しく言い渡してあるだろう。それを無視してお前はなぜ無許可で、しかも俺が絶対に許可しない200年を遥かに超える1200年近い遡行をしたのか!」と、
今日は朝から妻の美奈代の事もありしらふでいた晴雄が、最後の方は少々語気を荒げ、詰問した。
珍しい晴雄のいかっているのを見た雨雄は、多少気押されたが、今までにこういった場合でも雨雄はあまり気にする必要は無い、と言う事を知っていて平然とこう聞き返した。
「待てよおやじ、俺の質問の答えを先に聞きたいもんだな。その答えによって返答が変わるからな」と、雨雄は切り替えした。
「それはさっきも言ったとおりに、お前に隠している事なんて何もない」と、言い切り、そして虚勢を張るかのように背筋を伸ばし、胸を張った。
そこで、雨雄はポケットから先日晴雄が机の上に置き忘れ、雨雄が勝手に持ち帰ったディスクのことを言い、
「じゃあ、あれの説明をしてもらおうじゃないか」と、ちょっと息巻いたが、晴雄は、平然と「何のことか」と、しらを切りとおした。
思わぬ晴雄の反応に雨雄は少々戸惑ったが、気を取り直し、「あまり驚かないようだな」と、聞きなおし、さらにこう続けた。
「それには、大した情報が入っていないと、安心してんだろう、けどなおやじ。俺はリギュンを手に入れてんだぜ、それがどう言う事か分かってるんだろうな」
「ああ、分かっているさ。過去に行ける様になったって事だろう。200年ほどだけな」と、晴雄は大した事じゃないさ、と言わんばかりに軽く言い返した。
「リギュンの前の所有者はおやじだったそうだな」
「そうだが、それがどうした」
「おやじはこのディスクのデータを、リギュンに移しただろう」
「いや、移した覚えは・・・」と、言いかけた時「はっ」としたような顔になり、「リギュンにこのデータが残っていたのか」と、小さな声で誰に言うでもなくでつぶやいた。
雨雄はそれを聞き逃さず、「ああ、そうだよ」
「あの時、データはほとんど壊れたと思っていたのに、俺はディスクを取り出す事の方ばかり気にしていて、あのデータをリギュンが勝手に記録していたなど、思ってもいなかった」と、また独り言のようにつぶやいた。と、ここまできてふと我に返り、
「それでお前は全部見たのか」と、雨雄に尋ねた。