第1章 古文書 その1
いよいよ本文です。
「まったく時空局の奴ら、だらしがねえったらありゃしねぇ。」
コクピットの中で、雨雄は子供のようにはしゃぎながら、小型恒星間シャトルの後方監視モニターを眺めながら、騒いでいた。
先ほど時空局のパトロール船と遭遇し、雨雄の船の方がパワーの大きい事を良い事に、パトロール船を振り切ったところだ。
「坊ちゃん、ほどほどにしておきませんと、またお父様に迷惑がかかりますよ。」と、後ろの機関席で船の機関コントロールをしていた、ビオーヴェが説経じみた口調で、声を掛けてきた。
このロボットは、もともと翻訳用ロボットとして作られ、腕は必要なかったのだが、翻訳用ロボットということで、見知らぬ人の前に出る機会も多く、見た目だけはヒューマノイドの格好の方が相手が親しみやすさが出る、と言う理由から、肩から二の腕を吊り下げるような格好で、腕はついていた。
しかし雨雄にとって、骨董屋でその金色に輝くボディに魅せられ、ふらふらと何も考えず購入したまではまだ良かったのだが、買ったときの興奮もさめ冷静になって来ると、パートナーが欲しかった雨雄にとって、腕の動かない口の達者なロボットは手に余り、何故買ったんだろうと、後悔すら覚えたのだった。
しかし雨雄はとりあえず、腕だけは部品を組み込み自由に動かせる様にし、小型恒星間シャトルの機関システムを、コントロールできるよう操作法を、ビオーヴェのコンピューターにダウンロードし、機関員として雨雄の船に乗せる事にしたのだ。
「ふん、なぁにが親父だ!あの飲んだっくれ!さっさとくたばっちまえばいいんだ。」
「そんな事おっしゃっては、お父様もかわいそうですよ。」
「ふん!、それより追いつかれたときの為に、いつでも全開で逃げられる様、機関を安定させておけよ。」と、言ったまま不機嫌に雨雄は黙りこくってしまった。
それでもなおビオーヴェが、「まったくもう、坊ちゃんは…」と、何か言いかけると、「もういいよ、お前は言い出すとしつこいんだからな、まったくどこにいったら翻訳するのに、いちいち説経するアルゴリズムが必要なんだろうな、こいつを設計した奴の顔を拝んで見たいもんだ。」と、
雨雄は毒づいたが、ビオーヴェは構わず、「後先の事を考えずに、すぐ行動しするんですから…」と、ここまで言いかけたが、テキスト文で家から通信が入ってきたので、言葉を切った。
義理の姉からの通信で、どうやら家でひと悶着あった様で、 「また、あなたのお父様が暴れましたよ。」と、言う内容だった。
ビオーヴェの報告では、なんでも、その騒動でテーブルが再起不能になったらしい、と言う事だが、
「再起不能?」と、雨雄が問い直すと、通信では再起不能とありました。おかしいですよねテーブルは再生不能とは言いますが、再起不能ですと生物に使われる…」
このまま放っとくと何時間でも、ビオーヴェの抗議が続きそうなので、
「これは言葉のあやってやつだよ。」と、雨雄はビオーヴェの言葉をさえぎった。
雨雄にとってこの後の時間には予定が無かった。(まあ雨雄は毎日、一日中ブラブラしているのだから、予定などある筈も無いのだが、)そこで自宅に帰り、親父が何をしたのか、やじ馬よろしく見てやろうと思いたち、
「よし帰るぞ!」と、ビオーヴェに言うのでもなく言って、船のコースを、イコムス星に向け、自宅に帰ることにした。