第7章 追憶 その3
ここにもう一人、過去に思いを馳せる女性が居た。
今朝、義父の通信を受けた時、あまりにも生みの親と晴雄の顔が似ているので、ルインダは父「あつし」と最後にあった日の事を思い出していた。
あの日、家族で始めてペリタン星を出て、イコムス星へ旅行に出発する予定だった。
シャトルの出発ベイで、お父さんが母美奈代は抱擁しているのを、ルインダは二人の下から見上げていた。
「俺はガジャド星に用があるから、先に出発するよ。美奈代は後からルインダとイコムス星に来てくれ」と、美奈代にそう言っていた。
その後、まだ7歳のルインダを抱き上げ「またすぐ会えるからね、先に行ってるからね」と、ほっぺにキスしてまたやさしく降ろしてくれた。
そして、二人に「それじゃ」と、軽く手を上げくるりと向こうに向きシャトルに向かうバスに乗り込んでいった。
ルインダは父が向こうを向く刹那、なぜか寂しそうですまなそうな顔を、自分に向けたような気がしたのを憶えていた。
その顔はすごく子供っぽく、7歳のルインダでさえ思わず「いいのよ、許してあげるよ」と、言いたくなる様な顔だった。
それまで、父は年を取って生まれたルインダを目に入れても痛くないと、言う位可愛がっていた。
この旅行は、家族が始めてペリタン星を出る旅行だった。
父は時々、ガジャド星へは一人で出かけていた。
それはガジャド星に住んでいる、クラスミ家に行く為だった。
クラスミ家の人達は、よく仕事などでペリタン星に来ていて、我が家にもよく家族で立ち寄っていた。
ルインダは、その家族の奨一とはよくケンカもしたし、またある時は二人で仲良く遊んだりもしていた。
出発ベイで父を先に送り、ルインダと母は父とは別の旅客船に乗り、イコムス星に向かう為に、別のシャトルに乗り込み旅客船に向かった。
ルインダ達は無事イコムス星まで着いたが、イコムス星で父が来るのを待っていたが、いくら待っても来なかった。
父の到着予定から1日たち、父の行方不明の知らせを持って、顔を青くしたクラスミのおばさんがイコムス星までやって来たのは、もう夜の帳が降りる頃だった。
ルインダの生活はその瞬間からガラリと変わってしまい、半年も経たない内に母はクラスミのおばさんの薦めもあり、今の晴雄と結婚したのだ。
晴雄は奥さんを亡くしたばかりだと言っていた。そして晴雄には生まれて間もない雨雄と言う男の子がいた。
晴雄は酒びたりの毎日でだが、仕事だけはまじめにこなしていた。
そんな晴雄に母はなぜかいやそうな素振りを見せず、おとなしく夫婦になった。
ルインダも今思えば自分でも不思議なのだが、徹底的に晴雄を嫌う事は無かったし、生まれて間もない雨雄がとても可愛く思い、本当の弟の様に思った。
そんな生活が30年も続いたのだが、今朝の晴雄の顔を見てそれまで記憶の深くにあった、父「あつし」の顔とダブっていたのだ。
ルインダは軽く頭を振り「そんな事、ありえない」と、ポツリと声に出し、否定した。