第7章 追憶 その2
ASGUの戦艦は小型船がうろちょろとするので、少々苛立って来たのか、めったやたら撃ってき始めた。
しかし、それが彼らにとって致命的な失敗をもたらした。
晴雄がうろちょろと逃げ回っていたのは晴雄自信たとえワープで逃げても、多分追いつかれるのではないかと思っていた。
そして確信は無かったが、銀河艦隊がこの事態を知り、こちらに向かっているだろうから、到着まで何とか逃げ切っていようと決めていた。
果たして晴雄の思惑が当たり、程なく第8銀河艦隊が到着し、ASGUの戦艦はそれまで小型船相手で優位だったのが一瞬にして立場が逆転した。
第8艦隊は降伏勧告をしたがASGUの戦艦は勧告を聞かず、第8艦隊に向かっていったのだが、勝負はなくあっけなくASGU戦艦の撃沈と、言う恰好で終わった。
晴雄が現地に到着した時、すでにアコーニィ号の乗員や乗客は非常脱出しており、ルインダの消息はUSGの艦隊が来て本格的な救助活動が始まるまで判らなかった。
第8艦隊は、後から来た第7、第9艦隊と共に第3宇宙域の艦隊で、貨客船の周囲に散らばっている脱出用シャトルに居る生存者の救助を始めた。
晴雄は勝敗が付き落ち付いた所で船を止め、治療室に救助した生存者を見舞った。
それは幼いほんの生まれたばかりの男の子だった。その子を見て晴雄は驚いた。
てっきりルインダと一緒に居るものと思っていた我が子、雨雄だったからだ。
雨雄は見つかったが、晴雄はその事で余計ルインダの事が心配になっていた。
雨雄は晴雄が到着した時には、貨客船内に一人でいたと思われた。
しかしセンサーで人体反応を見た時、アコーニィ号はすでに人間の反応は無かったからだ。
幼い雨雄を置いてルインダが一人脱出するはずもなく、またそんな妻であるはずも無い。
雨雄一人居たという事は、ひょっとしてルインダに、何か重大な事態になっているのではないかと、不吉な思いが胸をよぎっていた。
案の定いくら待っても、艦隊の方からはルインダに関して何も報告は無かった。
晴雄は当時まだ、時空局の監視室の監視員であった為、時空局の勤務もあり後ろ髪を引かれる思いで、その場を離れイコムス星に向かった。
イコムス星に着いてからも、USGの方からはルインダの消息は知らされなかった。
雨雄はUSGに対し、もし仮にあの場所でルインダが貨客船の爆発に巻き込まれたのなら、せめてルインダの遺体の一部なりとも捜してほしいと、懇願した。
USGも、もう一名行方不明者がいたため、晴雄の要請に応じてその事件の空域をくまなくスキャンしてみたものの、ASGU戦艦の乗員であろうと見られる反応は見られたが、ルインダやもう一名の行方不明者の、DNAの痕跡すら見つけることが出来なかった。
時間がたち、日が経つにつれ晴雄は、自分があの時にリギュンに夢中にならず、慣らしの飛行も程ほどに帰ってきていれば、ひょっとしてルインダも見つけられたのではないかと、自責の念がましてきていたのであった。
そしてついには毎夜寝ると悪夢のごとく、あの時の事を夢に見るようになった。
晴雄は軽く頭を振り、意識をはっきりさせようと、立ち上がり待合室の窓に向かい、そのうす赤いイコムス星の空を見上げ、美奈代もまたルインダの時のように手遅れになってしまうのだろうか、そうならないで欲しいと願った。
美奈代には結婚当初より迷惑ばかり掛けていて、あまり大事にした覚えが無いのであった。
それなのに美奈代は愚痴の一つもこぼさず、晴雄によくついて来てくれていた。
今になって、ルインダの事に30年も引きずられ、幼い雨雄を見てくれ、晴雄に尽くしてくれた美奈代がいとおしくなった。
そして今回も遅かったのかと、後悔が湧き上がりそうになる晴雄であった。