第5章 銀河艦隊 その3
織田雨雄さん、お久しぶりで…」と、シドフィル提督が作戦室に入ってきて、挨拶をしかけが最後まで挨拶を言い切ることが出来ず、唖然と雨雄の顔をまじまじと見つめたまま、そこに立ち尽くしてしまった。
シドフィル提督にとって、そこに立っている雨雄は30年前に会った当時のままで、年を取らず若いままであったのだ。
シドフィル提督の知っている雨雄は、60歳になっていなければ成らないはずだったのだ。
提督は気を取り直し、椅子に腰掛け、「織田雨雄さん?ですよね?」と、雨雄にそう問いかけた。
「そうだけど、俺はあんたを全然見覚えが無いんだけどね、そもそも艦隊に関わる事なんか無いもんでね」と、雨雄は「お前こいつ知ってるか?」と、ビオーヴェに向ってそう問いかけた。
「この方は、銀河艦隊提督シドフィル中将で、31年と4ヶ月と12日前銀河艦隊アカデミーを卒業し、30年前にペリタン星に於いて、ASGUの敵艦隊と激しい…」と、ここまで言いかけたビオーヴェに、雨雄は右手を上げ、
「もういいよ」と、うんざりした顔で雨雄はビオーヴェを制し、「俺の言ってるのは、そう言うデータでは無くてだなぁ、俺たちが、個人的に知ってるかって事だよ。要はこの人と俺は友達かって事だ」
「それは、まったく無いですね」と、あっさりとビオーヴェは否定し、それ以後沈黙した。
それまで、二人のやり取りを聞いていた提督が、「貴方はペリタン星には行かれた事はありませんか」と、落ち着いた口調で雨雄に問い掛けた。
「無いなぁ」と、ビオーヴェに「そうだろう」と、同意を求め、今度は提督にの方を向き、「それが何か重要な意味でもあるのかよ」と、そう聞き返した。
「先ほど、ビオーヴェが言いかけましたが、私のとって最初の実戦がペリタン星でした。
あの戦闘はUSG艦隊にとっては、分水嶺のような戦いでした。
当時、ペリタン星は銀河系第3宇宙域の宇宙艦隊工廠があり、エネルギィも豊富な星で艦隊のエネルギィ補給基地でもあったので、USGにとっては要衝であり戦略的に死守しなければならなかったのです。」
「ふーん、そうなんだ」と、興味なさげに雨雄は聞いていたが、提督はそれに構わず、
「あの戦闘はし烈な戦闘で、ASGU艦隊もここを落とせば、この銀河の進行が楽になる事を知っていて総力を挙げていたようです。
われわれは圧倒的な戦力の前にUSG艦隊はじりじりと押されていて、ペリタン星自体にも被害が出始めたその時、一つの小さなガンシップが現れました。
当初USG艦隊は押されていて混乱し、その船の存在さえ気が付きませんでしたが、驚く事にその船は、次々とASGU艦隊の艦船を撃破して行き、12時間後には300席近くいたと思われるASGU艦隊の80パーセント以上を撃沈し、ASGU艦隊を撤退させました」
「ふーん、なんか歴史の授業を受けてるみたいだ」と、まったく興味を示さない雨雄を無視し、さらに提督はこう続けた。
「その小さなガンシップの名前は、USG艦隊の歴史に正式には記されていませんが、『リギュン』と言いました。そしてその船長は『織田雨雄』と名乗り、お供に金色のロボットを連れていたのです」
ここまできてやっと雨雄が「なに!」と、言う顔をして提督の方を真直ぐ向き、聞き耳を立てるようになった。
「その時雨雄さんの、お世話をしたのが当時、中尉になったばかりの私でした。お世話をしているうちに雨雄さんから、タイムドロップ戦法のヒントをもらい、実際にペリタン星の戦闘で敵を撃破したのはこの戦法だったんだよと、教えてくれました」と、ここで一度大きなため息を付き、こう続けた。
「しかし、雨雄さんは詳しい方法は教えてくれませんでした。これはまだ君には教えてはいけない事だ、しかし40年後ここで待っていれば、その時君に合い詳しく知る事になるから楽しみにしていろよ、とこう言い残し何処か去って行ったのです」と、そう言うと今度は黙って雨雄を真っ直ぐに見て、黙ったまま雨雄の返事を待った。
しかし雨雄は「俺は‥あんたをまったく知らないしなぁ、」と、戸惑いながらそう答えるのが精一杯だった。
「私は、この日の為に色々と研究してきてみましたが、しかし先ほど貴方が見せた戦法程完全に船が動きません。
出来れば先程の詳しい戦法をお教え願えれば、これからAUGUに向うわが艦隊にとって、非常に大きな戦闘能力のアップにつながりますので、約束通り是非ご伝授願います」と、こう言って提督は頭を深々と下げた。
そこで先程の戦法をどういう風にしたか、提督にありのままを話すと、「それではどのようなリンクを張っているか、少し調べさせてもらっても良いでしょうか」と、提督が申し出てきた。
雨雄は他人に自分の体を調べられるのは性に合わない性質だが、普通なら拿捕され監禁されても文句の言えない事をしでかしていたので、しぶしぶ同意した。
「雨雄さん、大変参考になりました、これで完璧な操船が出来るようになるでしょう」と、提督は別れ際感謝を込めてそういった。