第5章 銀河艦隊 その2
「よし!これで行こう」と、雨雄がぽつりと言うと、リギュンがその場から消え次の瞬間武器を装填し終った状態で、ザイエルフィのブリッジの真ん前に現れた。
ロックもしっかりとブリッジに合されていた。
ザイエルフィのブリッジにいた乗組員は皆驚いて、少々パニック状態になっていた。
そこに今回の作戦立案し、指揮も直接取る為に乗艦していたシドフィル中将がブリッジに現れた。
「艦長!やけに騒がしいが、何事かね?」と、艦長に質問し、同時に前方の大型モニターを見て、
「なんと…」と、言ったまま暫く言葉を捜すのに発する言葉が無いように、ただ口をもごもごと動かして、言葉にならないうめき声のような声を出していた。
「タイムドロップで敵船の後ろに回り、魚雷をロックし次第発射しろ」と、艦長は提督の質問には答えず、部下に命令していた。
航行士はすぐさまタイムドロップし、時間をすべりその間に空間を移動し、リギュンの後ろに付け、リギュンに照準を合わせようとした瞬間、リギュンが今居た位置から消え、まるでのろまなザイエルフィをあざ笑うかのように、そのブリッジの前に現れ、今度はごく弱いレーザービームをブリッジに向け発射した。
リギュンの中では雨雄が、「USGの奴ら今ごろ、青くなってるぜ。きっとな!」と、大きな口をあけてげらげら笑いながら、さも楽しそうに外の様子をモニターで見ていた。
再び、ザイエルフィが動いたが、向こうの動きは、リギュンと雨雄の脳と同期されている今の雨雄にとって、それこそのろまな亀だった。
再びリギュンがザイエルフィのブリッジの前に現れ、さすがにザイエルフィの艦長も危機感を感じたのか、ドロップアウトしていた全艦にリギュンに対し攻撃をするよう指示した。
「坊ちゃん大変です!銀河級戦艦がリギュンを全方向から取り囲んで、こちらに照準を合わせています」
「それがどうかしたのか」と、雨雄は何でそんな事を気にしているのか、とでも言いたげにビオーヴェに聞き返した。
「ですが坊ちゃん!50隻以上の大艦隊ですよ。これだけの艦船を敵に回して無事でいられるはずが無いでしょう」
「さあな、それはどうかな」と言って、雨雄が神経を集中すると、リギュンがザイエルフィの前から消え、一隻の艦船の前に現れ、外部をモニターするセンサーに向ってごく弱いレーザー照射を行いブリッジの中からビューワでモニターできないようにした。
1隻の艦船にそれを行うと、次々に艦隊の艦船の前に現れてはセンサーを破壊していった。
ザイエルフィのブリッジには次々と攻撃された事を伝えてくる通信でパニックになっていた。
ザイエルフィの艦長は、顔が赤くなったり青くなったりしながら何やらわめいていた。
「もういいだろう。艦長リギュンに対して降伏する事を伝えなさい」と、それまで黙って成り行きを見ていたシドフィル中将がザイエルフィ艦長にそう命じた。
「なんですと!」と、艦長はそれこそこれ以上赤くはならないだろう位の赤い顔をして、提督の方を見ると、提督は今までの成り行きを楽しんでいたかの様に、顔を和ませ真直ぐにビューワに映る、リギュンの動きを追っていた。
「投降して、彼を…、雨雄さんをこの船に招待してくれ」と、提督はそう言って、自分の部屋に引き上げて行こうとしたが、ブリッジを出る際、
「こちらに来られたら、作戦室にお通しして私に連絡をくれるかな」と、艦長に言ってブリッジから出て行った。
突然艦隊より投降すると言われ、さらにこちらに招待したいので、ザイエルフィまでご足労願いたいとの申し出に、雨雄は少し戸惑いはした。
しかし、さすがの銀河艦隊の艦船であろうとも、雨雄とリギュンのリンクは切れないだろうと思った。
もしも身柄を拘束されるような状況になっても、今の雨雄とリギュンの実力からすれば艦隊から雨雄を自由にする事は簡単に出来そうなので、雨雄は申し出を受けザイエルフィに向かう事にした。