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青い蝶  作者: 伊湖夢巣
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第3章 母 その1

「リギュン開けておくれ」と、ビオーヴェが言ったが、リギュンのハッチはぴくりとも動かなかった。


 「お前、呪文間違えたんじゃないのか、たとえば『開けごま!』とか?」と、先ほどから興奮して船に駆け寄ったビオーヴェに対し、からかうつもりで言った。


雨雄には駆け寄ったように見えていたが、実際には人の足でせいぜい早足程度の速さで船に近づいただけではあった。


 あまりにもビオーヴェがせかせかと上半身を左右に振り、まるで人が興奮して小走りに駆け寄ったように見えた。


 ビオーヴェにとっては確かに駆け寄ったのだったのだが、その様子はこっけいに見えたのだろう。


 「いえ、私とのリンクが完全に切れています。と言うより、リギュンそのものが完全に機能を止めています」とビオーヴェが言うと、そばで聞いていたウエスダーが


 「その『リギュン』ってのはこの船の名前なの?」と聞くと、


 「ハイ、お嬢様、もともとこの船は型式をH729‐1型の船なのですが、初代ご主人様は、『鷲』とか『とんび』とかいう意味の名前をつけられましたが、57代目のご主人様が地球のドイツの方で、雨がしとしと降る様子が大変お好きで、お国の言葉で『雨が降る』と言う意味の『リギュン』と言う名にしたのだそうです」と、その名前の由来を語った。


 そして更に自分も、58代目の主人に今の名前を付けてもらったのだそうで、それまでは記号と数字の羅列だったので、ビオーヴェ自身も気に入って今の名前を使ってもらうよう、主人が変わるたびに願い出ていた。そしてその意味はつけた人がイタリアの人だったので、


 リギュンとそろいの意味で、イタリア語で『雨』と言う意味の『ビオーヴェ』とつけたそうだ。


 「そう言えばあーちゃんも雨の男ね」とウエスダーがアマオの方向かい笑顔で言い、


 「あなた達は、この船も含めてだけど、どうやら何百年も前からここで再開する事が運命づけられてた様ね」と、感心するように続けた。


 「まあそれはいいんだけど、ハッチが開かなきゃいくらここで出会っても、意味がねえよ」、雨雄は返した。


 しかしいつも雄弁なビオーヴェはそれに答えず、機体後部にある下向きに開くであろうハッチに近づき機体表面を眺め、なにやら捜していた。


 そして探し物が見つかったのか「ありました、やはりこれはリギュンに間違いありませ」と言い、自分の手のひらにあるちょっと出っ張ったランプ状の物を、その機体のハッチの横にあるくぼみに押し付けた。


 手のひらの出っ張りと機体のへこみは寸分違わずぴたりと合った。


 それがスイッチなのかと、雨雄は期待して待っていたが、相変わらずハッチは閉じたままで何も起きなかった。


 「なんだお前、キーを首になったんじゃないのか」と、雨雄が屁理屈にも似たような事を言った。


 「いえ、今、リギュンのサブ起動コンピューターにアクセスしましたが、リギュンは長期の放置に加え、意図的にここに置かれる直前全てのエネルギィを放出されていて、現在はサブ起動コンピューターを動かすエネルギィすら、無い状況の様です」と言って、機体から手を離した。


 「何、それじゃせっかくキーのお前が居てもこの船は動かないのか?」と、さっきまでワクワクしていた気持ちがいっぺんに冷まされてしまった雨雄は、周りを見回し何にあたってやろうか捜し始めた。そんな雨雄の様子を見ていたウエスダーが


 「まだ何かビオーヴェに続きがあるようよ」と、ビオーヴェに注意が向く様仕向けた。


 「有難うございますお嬢様、もし坊ちゃまの注意をこちらに向けてくださらなければ、今ごろ何がガラクタになっていたかわかりませんでした。」と言うと、


 「どうせここにはガラクタばっかりさ」と、先ほどから三人、(もっとも一体はロボットだが、)の後ろで黙って様子を見ていた骨董屋のオヤジが後ろから答えた。


 「あっ、いえ私はここの物がガラクタだなんて思って言った訳では…」とビオーヴェが言葉を詰まらせたのを見て、オヤジは「何、そんな事は分かってるさ、ちょっと言ったまでさ」と、「ははは」と、笑った。


 「続きって何だよ」と、まるで駄々をこねるように雨雄が聞くと、


 「今からこのリギュンの起動手順をお教えします。しかしこのリギュンは今ここの骨董屋のご主人様が持ち主なので、骨董屋のご主人様の承諾が必要かと思いますが」


 「俺は別にいいさ、かえっていつまでも動かないままでここにあると、それこそガラクタ同然だからな」と、オヤジが答えたので、


 「それでは起動して見たいと思うのですが、私では物理的に起動工程を実行できません。みなさん協力お願いします」と言って、起動工程の説明を始めた。


 はじめに雨雄にハッチの横にある小さなハッチを開けろといった。その中にレバーがあるのでゆっくりでいいからそれを引けと言う。雨雄は言われるがままにその小さなハッチを開け、レバーをゆっくり手前にひいた。


 するとその機体の内部で、ウィーンというまるで電動モーターを手で回したときのような音が聞こえてきた。


 一度引っ張りきったがもう一度と、いわれ2度目に引っ張りきったとき小さなハッチの横にあったランプが赤く点灯した。そこで更にビオーヴェはもう少しですもう一回と雨雄にもう一度引っ張る様言った。


 もう一度引っ張ると、ランプは赤から緑に変わった。


 変わると同時にビオーヴェが「やりました、リギュンのサブ起動コンピューターとリンクが無線で確立されました」と言うと、「それで、そのサブ起動コンピューターはいつハッチを開けてくれるって言ってるんだ」と雨雄が聞くと、次はメインの起動コンピューターを起動し、更に自家発電装置を動かしその後、リギュンそのものを起動させる準備をすると言った。

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