第2章 リギュン その5
映像を見た後、雨雄は黙りこくってしまった。何か考え物をしているようで、所在なげに自分の部屋だけではなく、家の中をうろうろしていた。
その様子を見ていた義姉のウエスダーが「あんたからスターシップを取ったら、何にも残んないのね」と、何があったかのかも知らずにからかっていたが、そんな言葉さえ耳に入らないかのように、いつまでも家の中をうろうろしていた。
ほぼ丸一日たった頃、やっと口を開いた。しかも独り事のように、
「やはりあのマシンが必要だな、しかし…」と言って、ビオーヴェを見据え「さすがのお前でも今度は無理だろうな」と言った。
「何が無理なんですか?」とビオーヴェが尋ねるので、カジャドで聞いたことを全て話して聞かせた。
「そうでしたか、私も以前、船のキーになっていました」と言った時、雨雄の顔が一瞬明るくなり「もしかしてお前がキーなのか?」そう聞いた。
「いえ、おそらく私が乗っていた船とは違う船だと思います、私が乗っていた船から降ろされたのは、もう300年ほど前になりますし、その船は時空航行等は出来なかったです」と言い、俯いてこう続けた。
「その船の最初の御主人が亡くなる時、この船は常にお前と共にあれ、という事をおっしゃり、私がいればその船は動くように船と私を、それぞれ改造し、リンクしてくれました。3千年以上一緒にその船と飛んでいたのですが、ある代のその船の御主人のとき、お前はうるさいという理由から、代わりのキーボックスを作り、私を行商人に売り飛ばしてしまったんです」と、初めて雨雄に自分の過去を話した。
「そうか、お前にはそんな過去があったのか。ロボットに聞くのもなんだが、今は不幸か?」と、雨雄はビオーヴェの顔を覗き込んだ。
「いえ、とんでもございません、あなたは最初のご主人様に性格がそっくりです、私は坊ちゃんのことが好きですし、坊ちゃんに引き取られた事を幸せだと思っています」と、顔をあげ真っ直ぐ雨雄を見てそう言った。
「そうか、似てるか」と、嬉しく思いながらも、しんみりとビオーヴェを気遣うようにぽつりと言った。
だがそうそうロボットとしんみりした話をしていても、時間つぶしにはなるが、雨雄にとってあまり面白い事ではなかったので、とりあえずビオーヴェとその船をもう一度見に行こう、と云う事になった。
しかし、今日の定期便の最終便はもう出た後だったので、明日まで待たなければならなかったが、雨雄は思い立ったらすぐ行動したい性質なので、そういうふうに明日まで待たなければならないのが苦手だった。
そこで雨雄はウエスダーに事の経緯を話し、カジャド星へ連れて行ってくれるよう頼んで見た。ウエスダーは「いいわよ、カジャド星の友達の所に行きたいと思ってたから、ついでにそっちにも寄ってみるわ」と、快く承知してくれた。
早速二人はビオーヴェを連れウエスダーのシャトルでカジャドに行き、その骨董屋を訪れた。
そして、ビオーヴェが船を見るなり
「オオっー『リギュン』だ!『リギュン』じゃないか」と急に大声を出しその船にたどたどしい足取りで駆け寄った。
その船こそが300年前までビオーヴェが乗っていた船『リギュン』だったのだ。
ビオーヴェとリギュン、運命の再会ですな。
ビオーヴェのAIって、感情があったんかいな。って、自分が書いといて、すみません…