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冬の花  作者: 上原直也
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朝起きると、まず部屋のカーテンをあける。すると、差し込んでくる光はその日によって色々なんだけれど、でも、今日はたまたま灰色の、少し冷たいような光で、よく耳を澄ませてみると、アパートの外に微かに雨音が聞こえた。降っているのかどうかもわからないくらいの静かな雨。

 ベッドから起きだすと、浴室まで歩いていき、そこで顔を洗って、歯を磨く。それから朝食を作る。といっても面倒でもあるので、トーストを二枚焼いて、あとはコーヒーメーカーでコーヒーを作るだけだったりする。

 パンとコーヒーが出来上がると、一間の部屋で、直接フロリーングの床に腰を下ろして朝食を取る。あまり味はしない。ただ胃のなかに食べ物を流し込んでいるという感じだ。

 朝食を食べ終えると、寝間着からスーツに着替えて、急いで簡単に、必要最低限の化粧をする。それから、アパートを出て、傘をさして、最寄り駅まで歩く。十分くらい。駅で五分くらい電車を待つ。やがてやってきた電車に乗り込む。通勤電車だからもちろん混雑している。今日は雨が降っていて、みんな傘を持っているから、たださえ狭い車内がいつもよりも狭く感じられる。近くの乗客同士が言い争いをしている声が聞こえてくる。誰かがもうちょっと詰めろよと言って、もうひとりが詰められねぇよと言い返している。聞こえてくる舌打ち。電車はやけにのろのろ進む。いつも通りの毎日がはじまっていく。わたしは少しでもエネルギーを節約しようと瞼を閉じた。

 社会人になってから三年目になる。過ぎていく毎日はお世辞にも心楽しいと呼べるものではない。ぐっと歯を食いしばって、なんとかかんとか毎日をやり過ごしているような感じだ。それはたとえば窓の外に見える無数の建物のように、薄汚れた灰色をしている。……少しずつ、少しずつ、意識のなかに沈殿していく灰色の色素。冷たいような色彩。

 ……べつに職場に対してどうして我慢できないほどの不満があるとか、嫌なひとがいるとか、そういうわけじゃない、と、思う……思うんだけれど……でも、自分という存在がすり減っていくような、疲弊していくような感じはどうしようもない……わたしはこの先どうするんだろう、と、ときどき疑問に思う。わたしはこの職場でずっと働き続けるのだろうか。いつも機嫌の悪そうな上司に緊張しながら……同僚のひとたちとの距離を気にしながら……毎日の残業にうんざりしながら……週末を心待ちにして……じゃあ、いっそのこと辞めちゃえば?ともうひとりのわたしが簡単に言う。わたしはもうひとりの自分に反論する。じゃあやめてどうするの?そんなの知らないわよ、と、もうひとりのわたしは面倒くさそうに答える。やめてしばらくゆっくりするのもいいし、何か他の仕事でも探せば?でも、今の仕事もやっと慣れてきたところだし、それに辞めて他のところにいったとしても、どこも似たようなものだと思うんだけど。そう思うんだったら、辞めなきゃいいじゃない?あなたが言い出したことなのよ。それはそうなんだけど……。ねえ、辞めたら楽になれるかな?実を言うと、わたし不安なのよ。辞めたあとすぐに仕事が見つかるのかなって。それにわたしにはとりたててやりたいこともないし。だから、そんなんだったら辞めなきゃいいじゃない、と、もうひとりのわたしは苛立った口調で言う。……それはわかってるし、最もなんだけど……。勝手にすればいいじゃない。付き合ってらんないわよ、と、もうひとりのわたしは背中を向けてスタスタと歩いく。わたしは遠ざかっていく彼女の姿を黙って見送る。

 










小説家になろうに掲載していた、本文は、著者都合により、削除させて頂ました。申し訳ございません。もし、まだこの小説が読みたいという方がいらっしゃいましたら、Amazonで『Hello Hello』で販売していますので、そちらからお買求めくださいませ。よろしくお願い致します。

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