第1話 樵の逆召喚 ~実験ですから~
騎士を召喚され返されてから半月、あっという間に姫さんはこの世界から異世界に召喚されたものを召喚し返す儀式魔法、略して逆召喚の儀式魔法を作ってしまいました。
本気を出した姫さんは凄いです。
そして今、木枯らし舞う林の中で逆召喚の儀式魔法を初めて使うための準備中です。
隣に姫さんがやって来ました。
「カイト、何を見てるの?」
「儀式魔法の準備ですよ。ほら、魔法陣班が魔法陣を描いています。」
私は、魔法陣を描いているあたりを指さしました。
「なんだか子供の土遊びみたい。あちこちで土をガリガリひっかいているし。それに城で描いていた時よりも遅くない?」
平らな床に書いてるのとはスピードは違うと思いますよ。
「城は床石に刻んだ後、塗料を塗るところだけでしたから。今回は土を掘る所からですから、床石に刻む時間も含むと、城に描いた時の方が時間が掛かっていますよ。ああ、あそこにインクを流すのなら沢山必要ですね。今回の費用請求で、インクの材料費が、城に描いた時の10倍も請求されていた理由が分かりました。」
「10倍って水増し請求じゃ無いの?」
最初は不正を疑ったそうですよ、でも。
「水増し請求に現物支給歓迎なんて書きませんから。」
「でも財務部あてなら現物なんて無いでしょ?結局現金になるじゃない。」
現物が無ければそうなんですよ、でも。
「人の毛髪は現物支給したそうです。『毛髪くらい自分達で賄え』と書き添えて。」
「あのあたりの人長髪だし、賄えそうね。」
そう思って書き添えたと思います、でも。
「『儀式魔法の詠唱者は長髪が必須。唱えない者の毛髪は儀式魔法研究と、城で召喚の際に使用した。これからも現物支給よろしく。』と返されたそうです。」
儀式呪文を詠唱する者には、「長髪である事」という条件が付いているから切れないんですよね。
「そういえば、呪文詠唱する者は長髪である事だったわね。」
ええ、あなたが復活させた儀式呪文ですからね。儀式呪文の手引きに書いたはずですよ。
「長髪の者は、詠唱呪文を唱える人員か、そのスペアです。」
「そういえば長髪の人とベリーショートの人だけね、スキンヘッドの人も多いし。所でそんなに髪の毛が必要だとそのうち城中の髪の毛をインクにするんじゃない?」
「……インクを節約するように言っておきます。」
城中スキンヘッドにする訳には行きません。
「あっちの長髪の集団は、動かないでぶつぶつ言っているわね。」
そう言って馬車の近くで人が集まっている所を見ました。
「彼らは詠唱班ですね。正確に呪文を唱えられるように、練習をしているのでしょう。」
「同じ服で同じ長髪で同じ顔色ね、白いわ。」
「顔は緊張しているから白いのでは。服も長髪と一緒で魔法を唱えるのに必要です。」
こちらも儀式呪文の手引きに書いてあります。
「そう言えば呪文を詠唱する者のローブの指定もあったわね。色とか生地とか模様とか。」
「細かかったので予備も含めてまとめて作りましたので、同じ服になっています。」
魔術師は普段からお仕着せのローブ着用の人が多いので、同じローブが多いのですが。
彼らのローブは詠唱用ですから、わざと揃えてますよ。
「あちらの人は?村人みたいだけど」
今度は外れたところにいる男性二人と女性二人の方をを見ました。
「今回召喚される方の関係者です。事前に知らせたそうですから。」
「そう、見学に来たのかしら。所でカイト。」
今度は私の方を見ていました。
「なんです?」
「今日召喚される者の関係者に騎士の人が居ないのだけど。」
「今日召喚される者は樵のヨークさんですね。ですから騎士はいません。」
騎士の人は皆護衛ですよ。関係者が騎士でも、仕事中でなければ騎士服は着ませんが。
「騎士じゃないの?」
ああ騎士に忠誠を誓ってもらうのが目的でしたからね。
「実験ですから」
「実験?」
姫さんがキョトンとしています。
「逆召喚の魔法儀式をするのは。今回初めてです。」
「ええ」
「ちゃんと動くかどうか解っていません。」
「動くわよ。」
でしょうね。姫さんが作ったものですし。
「それを私達以外の人にも解っていただくのが、今回の儀式魔法の意味です。」
「それと樵にどんな関係があるの?」
樵はどうでもいいんですがね。
「確実に召喚された人間で、なおかつ召喚された場所もはっきりして城から往復1日以内である事が重要なのです。」
「この人ははっきりしているの?」
「はい、召喚された場面を目撃した者がいますので。」
「だから樵。」
樵にこだわりますね。
「騎士で確認された人はいませんから。」
「……始めましょうか。」
「はい。」
納得されたようです。丁度魔方陣も描き終えましたし、儀式魔法も始めましょうか。
皆が所定の位置に着きます。
姫さんが魔法陣に魔力を流すと、魔方陣が淡く光ります。
それを合図に、呪文の詠唱が始まり、詠唱が進むにつれて、光がだんだん強くなります。
詠唱が止むと同時に姫さんが力ある言葉を唱え、唱え終わると、魔方陣の光が目を開けていられないほどになり、眩しい光が皆の視界を奪います。
その光が収まると、魔法陣の中心にはがっしりとした青年が立っていました。
「わた…」
「ヨーク!」
姫さんの言葉にかぶせるように、見学中の一人が青年の名を呼びました。
「ハンナ!」
青年は、名前を呼びながら彼女に駆け寄り抱きしめました。
彼女も抱きしめ、二人の世界が出来上がります。
「カイト。」
気が付くと姫さんが目の前にいました。
目が座った姫さん。珍しいですね。
「実験ですから。」
召喚された時の目撃者が彼女さんでしたしね。
「…実験…実験ね…」
何とか納得しようとしてるようです。
「今度は、彼女のいない人を喚び戻したーいっ!」
調査班に、次の召喚くらいは可能な限り、彼女のいない人を優先してもらいましょうか。
読んでいただき有難うございます。
もしも少しでも面白いと思っていただけましたら、
★を少しでもいただけますと、喜びます。




