第12話 採集者の逆召喚 ~安らかに~
あれから2週間経ちました。数回後の逆召喚儀式魔術です。
「カイト。」
姫さんもやっぱり元気です。
「今日は綺麗なところね。」
「花畑からの召喚だったようですね。」
「それで今日は掘り返してないの?」
「この花はそれなりに貴重な薬草だそうですよ。」
根を掘り返すな、薬草を抜くな、花や葉や茎を切るな、と言われたそうです。
「でも踏みつけているわね」
「そうしないと魔法陣が敷けませんから。」
掘り返してませんし、抜いてもいませんし、切ってもいませんよ。
丁寧に、根を傷つけないよう、株を掘り返して、脇に寄せておいて、終わった後にまた植え直すやり方が、一番薬草を痛めないとは思うんですが。
「板を順番に貰って、そのまま並んで歩いているだけだけど。」
「踊っているようですね。」
まるで1本のリボンが動くようです。歩幅も歩くリズムも揃えていますね。
「綺麗だわ。」
「踏み固めてから板を置くんですね。一つの円になりました。」
「止まって板を置いたわ。そして次の板を置くための列を作るのね。」
「魔方陣ができるまでに何回か繰り返すのでしょう。」
花畑の半分ほど踏み固めるようですね。枯れないで欲しいものです。
「詠唱隊の人達は踊っているわ。今日は服が引っかかっていないわね。」
「踊りやすいように、余裕を持たせたりスリットを入れたりしたローブを新しく作ったそうですよ。」
被服部も協力することにしたそうです。ローブの条件は満たしたうえで、よく踊れて綺麗に見えるローブに仕立てましたね。
「もう足を上げても途中で止まらないわね。あ、こけた。」
「頭を打ちましたね。呪文を忘れたり足を挫いたらいけないので、怪我につながる運動は自粛してもらいましょう。」
儀式呪文が唱えられなくなるといけませんからね。踊りはあくまでおまけですから。普段椅子から立つくらいしかしてない自分達の、運動能力の無さを甘く見ましたね。
「板を並べる方も、もうすぐ終わるわね。後ろの見物の人達も、拍手しているわ。綺麗なものが見れて喜んでいるみたい。」
「喜ばれるのも嬉しいのかも知れませんね。」
何やら楽しそうに歩いています。
「そういえば、オーソン兄様が城に戻られて嬉しかったんだけど。」
「どうかしましたか?」
オーソン王太子殿下とは仲も良かった筈ですが何かあったのでしょうか。
「最近オーソンお兄様に会わないの。どうかされたのかしら。」
「他の戦場の封印に行かれたのでは無いのですか?」
何も無かったようですね。
「封印に?オーソンお兄様が?」
「アンリ様に続けて行かせるのも酷かと。」
他に行ける大人が居るなら、子供は戦場に行かせたくは無いものです。
「マリアちゃんについて行ったのね。殆ど休めずに。」
「姫様と会えただけましでしょう。マリアちゃんは城で休んだら家族にも会えずに次の戦場です。」
里帰りさせる余裕もありませんが、里心がついて、戦場に行きたくないと言われないために帰せないんですよね。
「代わりが居ないのね。」
居てくれればとは思いますよ。
「それで、成人した封印の異能持ちを逆召喚してくれとの依頼が有ります。」
「逆召喚する人のスキルは分からないわ。」
ですよね。召喚された時や、帰って来た時にどんなスキルを貰ったかなんてわかりません。
「そちらは無理なので断れるのですが、女性も逆召喚してくれとの希望もあります。」
「女性を?何故?」
姫さんのわがままを知らなければ、何故男性だけと思われてもおかしく無いですよ。皆知っていますから気にしていないだけで。
「表向きは男性だけでなく女性も異世界から戻して欲しいと言う事で、本音はマリアちゃんが唯一の女性だからです。」
「女性ならば封印の異能を持っているとは限らないのに。」
勝手に変な期待をされても召喚された女性たちも迷惑でしょうに。
「表向きがまともなので断りにくいので、1人2人女性を逆召喚してお茶を濁そうと思います。」
「適当ね。」
適当でも効果が有ればいいかと思います。
「封印スキルを持たない女性が逆召喚されれば、頭も冷えるでしょう。」
「なるほどね。」
封印スキルを持った女性が何度も逆召喚される偶然なんて、無いでしょうからね。
「女性で召喚されたらしい候補者の名簿もありますから、城から1日以内の場所が特定出来たら、その者たちを逆召喚します。」
「よくそんな名簿があったわね。」
「人が召喚されたらしい目撃情報を辿っていって、途中で女性と分かって捜索を中止した人達の名簿です。」
除外者名簿とか呼ばれている名簿の一つですね。ほぼ場所の特定も終わっている人から選べば、逆召喚も早いでしょう。
「行方不明者や失踪者から探すだけじゃ無かったのね。」
「姫様からの条件がなければ、こちらの目撃情報から召喚された場所を突き止める方法が早いんですよね。身元も逆召喚して本人に聞いた方がやり易いですし。」
その方が簡単です。休日労働が無くなるかもしれない位に簡単です。
「それ、性別も、騎士かどうかも、恋人がいるかも分からないわよね。」
「だから、ちゃんと身元を調べてから、逆召喚しているんです。」
よく考えたら費用も時間も労働力も相当無駄に掛かってますね。姫さんのやる気代恐るべし。
「それで、今日の逆召喚者さんの身元は?」
「採集者のギャズさんです。」
「やっぱり騎士じゃ無いのね。」
「次の名簿に取り掛かった所ですから。」
そう早くは特定できません。
「仕方がないわね、さっさと始めましょう。」
皆が所定の位置に着きます。
姫さんが魔法陣に魔力を流すと、魔方陣が淡く光ります。
それを合図に、呪文の詠唱が始まり、詠唱が進むにつれて、光がだんだん強くなります。
詠唱が止むと同時に姫さんが力ある言葉を唱え、唱え終わると、魔方陣の光が目を開けていられないほどになり、眩しい光が皆の視界を奪います。
その光が収まると、半透明な、男の人らしき影が浮かんでいました。
「私は第2王女エルメラと言います。貴方がギャズ様ですか。」
「はい。私は帰って来れたのですか。」
ふわりと浮かんだままですが、辺りを見回しています。思い出もあるでしょうに花畑を潰してすみません。
「ええ、ここはあなたの故郷ですよ。」
「良かった。帰って来れた。」
感極まった様な声があたりに響きます。
「ゆっくりお休み下さい。」
姫さんが祈りの言葉を唱えると。影の様なギャズさんはゆっくりと天に昇って行きました。
「安らかなる眠りを。」
皆、魂だけとなって帰ってきた彼の冥福を祈っていました。
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