第0話 異世界から騎士様召喚 ~これが全ての始まりでした~
城の奥ににある部屋で儀式呪文が行われています。
呪文詠唱の間、少し前の事を思い出していました。
2か月前、エルメラ姫、姫さんが青い目を零れ落ちそうに見開いて、黒い髪を後ろになびかせながら、いつものように部屋に駆け込んでくると叫びました。
『カイト、アンゼローネが城を出て行ったわ!』
『らしいですね、南の森の戦闘の陣頭指揮だそうですね。』
アンゼローネ姫は第4王女にして神殿の聖女。王都に魔物の近づかない結界を張る為、毎朝神殿で祈っていた姫さんの妹君です。久しぶりのお出かけがゾンビやスケルトン満載の森ですが、しかたありませんね、遊びじゃありませんし。
『連絡が来ています。これから結界はエルメラ姫様にお願いしたいそうです。』
ほかに結界を張れる人が居ませんからね。姫様も張れますので、アンネローゼ姫も安心して陣頭指揮に出られたのでしょう。
『これで王城に残っている成人王族は私一人よ!他の王族はそれぞれ魔族の軍団との戦いの指揮をする為アールスト王国中に散っているのに!王族じゃなくても戦える人たちは平民だって皆戦いに行ってるのに、戦闘力が無いからって城の中にいろだなんて!』
戦闘力のせいよりも、最後まで生き残って欲しいからなのですが。王族は、戦場ごとにいて、鼓舞するのがお仕事ですけれど、姫さんはこちらでお仕事してもらわないと困りますし。
『アントニー王弟殿下とマクシミリアン第2王子も城におられますよ。』
『あの二人は王室の仕事と内政と全国の兵站を2人だけでこなしているじゃない。どちらか一人でも外に出たら、我が国は破綻するわ。』
2人がやっていることは解ってるんですね。良く2人で回していると思います。
『これからは姫様も1人で王都の結界を維持するわけですから、居ないと困るお1人ですよ。結界を張りながら、奥の禁書庫の本でも読まれては…』
『それよ!奥の禁書庫で何かこの戦いの手助けになる本を探すわよ!』
急に表情が明るくなりました。やることが見つかって良かったですね。
『本を探すのは良いと思いますが、結界を張る時間は忘れないでくださいね。』
『わかってるわ、さっさと行くわよ。』
後ろも見ずに姫さんはそのまま駆け出します。
『1人で行っても扉は開きませんよ。』
姫さんが立ち止まってこちらを向きます。ちょっと怒ってます?
『カイト、あなたも来なさい。なんで12個の条件を満たす者達が扉前に立たないと扉があかないのよ。』
『文句は扉を作った人に言って下さい。私と2人で条件を満たすんだから良いじゃないですか。』
本来なら最大12人必要なんですよね。『長髪』とか『黒髪』なんかの条件は大体ほかの条件の人が兼ねますが。
『なら、さっさとカイトも来て。本を探すわ。』
『はいはい。』
走り出した姫さんの後ろを、今度はついて行きました。
それから禁書庫の本を読み解き、古文書を見つけて半月後、姫様は、異世界から勇者を召喚する儀式魔法を発見しました。
あの時の姫さんは可愛かったですね。ぴょんぴょん跳ねながら、
『やった、これで役立たずって言われない、国が大変な時に呑気に本ばかり読んでって思われない。私も役に立てる!』
って。誰もそんなこと思っていませんのに。
それからは皆で大至急その魔術儀式を復元しました。
魔法陣を描く者、魔法陣班は、魔法陣の描き方を読み解き、描くための塗料を再現し、間違えることの無いよう慎重に、可能な限り急いで床に刻み、描きました。
他方、儀式呪文を唱える者、詠唱班は、徹夜で呪文を暗記し、大事な時に失敗せぬよう、何度も何度もリハーサルをしていました。長い髪を靡かせ、古文書に書かれていたローブを身に纏うことも忘れずに。
そして今、儀式本番です。
呪文が終わり、姫様が力ある言葉を唱えると、床に描かれた魔法陣が輝きました。あまりに眩しく、目をつぶってしまいました。目を明けていても白くしか見えなかったでしょう。失明…はしませんよね…多分。
その光が収まると、魔法陣の上には1人の騎士らしい男が立っていました。
我が国や近隣のものと細かいところは違いますが、装備も似ているし、雰囲気が騎士っぽい人です。
「何が…」
呆然とする騎士の前に姫が進み出ました。我が国第2王女にして、神殿を纏める聖女でもあります。ちゃんとしていれば威厳もあります。
「異界よりまいられし勇者様、我が国をお救いくださ「今すぐ元の場所に戻してくれ!」
姫さんからのお願いにかぶせるように、騎士からの願いの言葉がありました。
「残念ながら、元居た世界にお返しする方法は見つかっておりません。この国をお救いくださった暁には国を挙げて元の国に返す方法をお探しします。」
「それでは遅い。あの魔物は今この瞬間にもわが姫に襲い掛かっているやもしれんのだ。今すぐあの場所へ戻せ!」
切羽詰まっているような、だんだん命令口調になっている騎士さん。怒っているような気もします。
「ですから、元の世界にお返しする方法はまだ…」
姫と異世界の騎士殿が話されているさ中、急に騎士殿の足元に魔法陣が表れ輝きました。
「これは…この魔力はわが姫の。姫、今おそばに参ります!」
まぶしい光の中、騎士の声だけが響きました。
そして光が収まった時、騎士の姿はなく、姫とわれら今回の召喚の関係者のみがいました。
その場で俯く姫、その肩が震えていましたが、キッと前を向きました。
「姫様。」
後ろに控えていた官吏が姫に声をかけました。
「こうしてはいられません。国中を探して、異世界に召喚されたものを探すのです。そのものを探し出し、呼び戻せばその異能の力は2倍、そして別世界へ帰ることもなければ、ほかの姫に忠誠を誓われていることもないでしょう。
さあ、探しますよ、私に忠誠を誓う異世界帰りの騎士様を!」
少々目的が変わっていた様ですが、皆で異世界に召喚されている国民を探すことにしました。多分その者が我が国を救ってくれるでしょうから。きっと。
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