第8章 分裂
集まったのは、地下だった。
廃ビルの地下駐車場。
電灯は半分しか点いていない。
コンクリートの床に、影が濃く溜まっている。
ここにいる全員が、
それを“見る”側だ。
「……で、どうする」
最初に口を開いたのは、
刃を使う宝珠の持ち主――大人の男だった。
「もう、時間がない」
その言葉に、数人が頷く。
「闇は増えてる」
「被害も出てる」
「封じるとか言ってる場合じゃない」
俺は、壁にもたれて聞いていた。
「倒す」
誰かが言った。
「完全に。
元から断つ」
空気が、冷える。
「……それができるなら」
知っている側の一人が、慎重に言う。
「代償は?」
「仕方ないだろ」
即答だった。
「犠牲がゼロなんて、幻想だ」
胸の奥が、ざわつく。
「……人の話か」
俺は、思わず口を出していた。
全員の視線が、集まる。
「何だ」
「さっきから、
“仕方ない”って言ってるけど」
言葉を選ぶ余裕は、なかった。
「それ、人のことだろ」
一瞬、沈黙。
「お前の力は特殊だ」
刃の男が言う。
「人を斬れない。
だから、言える」
「違う」
即座に否定した。
「斬れるかどうかじゃない」
胸の奥に、
第7章の感触が蘇る。
爪。
快楽。
伸びていく感覚。
「斬らないって、決めてるだけだ」
誰かが、鼻で笑った。
「決意で、世界は守れない」
「じゃあ、世界って何だよ」
声が、少し大きくなる。
「誰もいなくなっても、
残ってりゃ世界か?」
空気が、張りつめる。
「……理想論だ」
知りすぎた少年が、低く言った。
あいつは、俺を見ていない。
「俺たちは、
もう戻れない」
その言葉が、
胸に突き刺さる。
「だから――」
「だから、
他を切り捨てるのか」
言い切った。
沈黙。
「俺は――」
言葉を探す。
「闇を止めたい。
でも、人を材料にする気はない」
「甘い」
「知ってる」
即答する。
「でも、それでも――」
視線を、一人ひとりに向ける。
「俺は、そっちには行かない」
はっきり言った。
刃の男が、立ち上がる。
「なら、足手まといだ」
「そうかもな」
それでも、引かなかった。
「でも、
俺は俺のやり方で行く」
宝珠が、ポケットの中で静かに熱を持つ。
仁。
名前だけは、知っている徳。
意味は、まだ分からない。
「……好きにしろ」
誰かが言った。
「ただし、
邪魔はするな」
俺は、頷いた。
「それでいい」
地下駐車場を出る。
背中に、視線が突き刺さる。
仲間だったはずの人たち。
同じ闇を見ているはずの人たち。
でも――
もう、同じ場所には立っていない。
外は、夜だった。
風が冷たい。
俺は、一人で歩き出す。
どこへ行くかは、決めていない。
ただ。
闇を倒すためでも、
世界を救うためでもない。
――人でいるために。
それだけは、
はっきりしていた。
背後で、誰かが言った気がした。
「それでも、お前は」
振り返る。
誰もいない。
ただ、影が――
少しだけ、長く伸びていた。




