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第3章 選ばれた者たち

 その違和感は、放課後の駅前で起きた。


 人が多い。

 いつも通りの雑踏。

 スマホを見ながら歩くやつ、部活帰りの集団、騒がしい笑い声。


 なのに――

 影だけが、騒がしくない。


「……また、かよ」


 俺は足を止めた。


 駅前の大型ビジョンの下。

 強い光のせいで、足元の影がやけに濃い。


 その一つが、ゆっくりと“盛り上がった”。


 人の形になる。

 でも、顔がない。


 喉が鳴る。


「……ここで、出てくんなよ」


 ポケットの中で、宝珠が熱を持つ。

 あの感覚。間違いない。


 逃げようとした、その瞬間だった。


「下がれ!」


 鋭い声。


 次の瞬間、俺の横を何かが通り過ぎた。

 金属音。

 風を裂く音。


 影が、弾け飛ぶ。


「……え?」


 血の匂いがした。


 影じゃない。

 倒れているのは――人だ。


「う、あ……!」


 若い男が、腹を押さえて蹲っている。

 その手の間から、赤いものが滲んでいた。


「ち、違……!」


 切った張本人が、震える声を上げる。


 高校生くらい。

 俺より少し年上か、同じくらい。

 手には、刃物――いや、刀のようなもの。


 異様だった。


 現代の駅前に、まったく似合わない。

 なのに、誰も騒がない。


 ――見えていない。


 俺は、はっきり理解した。


「おい……何やってんだよ」


 声が、震えた。


「違うんだ……そいつが……!」


 少年は必死に影の残骸を指差す。

 だが、もう何もない。


 残っているのは、

 腹を切られた“普通の人間”だけ。


「救急車……!」


 誰かが叫び、ようやく騒ぎが広がる。


 少年は、顔面蒼白で後ずさった。


「俺……守ろうと……」


 刀が、消えた。

 音もなく、宝珠の中に吸い込まれるように。


 その手に、珠が残る。

 青白く光る、別の宝珠。


 俺は、見てしまった。


 力が、人を傷つける瞬間を。


 救急車のサイレンが近づく。

 少年は、逃げるように人混みへ紛れた。


 俺も、動けなかった。


 胸の奥が、冷えていく。


「……同じ、かよ」


 俺のポケットの中。

 赤い宝珠が、静かに脈打つ。


 ――違う。


 ふと、そう思った。


 俺の力は、あの人を殴っても、何も起きなかった。

 闇にしか、効かない。


 じゃあ、あいつは?


 何が、違う?


 その答えは、すぐには出なかった。


 ただ一つ、確かなことがある。


 俺だけじゃない。

 もう、始まっている。


 選ばれた者たちが、

 この街に、確かに存在している。


 そして――

 力は、必ずしも正義じゃない。


 俺は、拳を握りしめた。


 知らないままじゃ、いられない。

 でも、知りすぎるのも――

 きっと、危険だ。


 駅前の喧騒が、遠く感じた。


 影は、もう動いていなかった。

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