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第15章 介入

 それは、災害に似ていた。


 地震でも、嵐でもない。

 だが、誰もが「おかしい」と気づく。


 朝のニュースが、途中で途切れた。


 画面が乱れ、

 アナウンサーの声が、低く歪む。


『……現在、市内各所で――』


 次の瞬間、

 影が、映った。


 カメラの不具合じゃない。

 スタジオの床から、

 はっきりと――“何か”が立ち上がった。


 放送は、すぐに切り替わる。


 だが、もう遅い。


 人々は、

 見てしまった。


「……ついに、か」


 俺は、テレビを消す。


 宝珠が、

 今までにないほど――

 静かだった。


 熱も、震えもない。


 まるで、

 役目を終えたみたいに。


 外に出る。


 空が、妙に低い。


 影が、

 建物とは違う角度で伸びている。


 人々は、ざわつきながらも、

 まだ日常を保とうとしている。


 だが。


 交差点の真ん中で、

 それは起きた。


 影が、

 人から離れた。


「……え?」


 中年の男が、

 自分の足元を見て、声を上げる。


 影が、

 勝手に――

 動いている。


 形を変え、

 立ち上がり、

 男を見下ろす。


 悲鳴。


 周囲が、逃げる。


 だが、

 影は――襲わない。


 ただ、

 “問いかける”。


 言葉はない。

 だが、意味だけが、

 直接、流れ込んでくる。


 ――お前は、何を選んだ。


 ――何を、見捨てた。


 男は、膝をつく。


「……やめてくれ」


 影が、消える。


 男は、泣き崩れる。


 誰も、手を出せない。


 それが――

 王の介入だった。


「……殴れねぇな」


 俺は、呟く。


 あれは、闇じゃない。

 人の中から、

 引き出されたものだ。


 宝珠を、握る。


 反応は――弱い。


「……違うな」


 俺は、手を離す。


「これは、

 倒す相手じゃねぇ」


 そのとき、

 頭の奥で――

 扉が、開いた。


 夢でも、声でもない。


 理解だ。


 王は、壊していない。

 裁いてもいない。


 選択を、可視化している。


 人が、

 見ないようにしてきたものを。


「……最低だな」


 そう言いながら、

 否定しきれない自分がいる。


 あれは、

 暴力じゃない。


 “突きつけ”だ。


 背後で、

 気配がした。


 振り返らなくても、分かる。


「これが、俺のやり方だ」


 闇の王。


 輪郭だけの存在。


「世界を、壊す気はねぇんだろ」


「ああ」


「でも、

 このまま続けば――」


「人が、壊れる」


 即答だった。


「だから、お前がいる」


 胸が、鳴る。


「……俺は、

 止められねぇ」


「知っている」


「殴れない。

 封じられない。

 説教も、できない」


「それでいい」


 王が、一歩近づく。


「お前には、

 否定する権利がある」


「……否定?」


「俺のやり方を」


「力ではなく、

 選択で」


 宝珠が、

 かすかに――

 応えた。


 ひび割れた赤が、

 淡く、光る。


 俺は、ようやく分かった。


 ここまで来て、

 やっと。


 戦う/戦わない、じゃない。


 勝つ/負ける、でもない。


 必要なのは――

 引き受けることだ。


 人が、

 選ばなかった結果を。


 王が、可視化した現実を。


 俺が、

 背負うこと。


「……なぁ」


 俺は、王に言う。


「次は、

 俺の番だ」


 王は、何も言わない。


 ただ、

 影が――

 少しだけ、揺れた。


 街では、

 人々が立ち尽くしている。


 誰もが、

 自分の影を、見ている。


 逃げられない問い。


 その中心に、

 俺は――

 立つことになる。


 仁の宝珠は、

 もう、

 武器を求めていなかった。

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