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第11章 動き出す影

 異変は、連鎖して起きた。


 一件目は、川沿いの遊歩道。

 二件目は、商店街の外れ。

 三件目は、学校の裏山。


 共通点は、一つだけ。


 ――闇が、逃げた。


「……ありえねぇだろ」


 俺は、現場に残る気配を探りながら呟いた。


 祓われた形跡はない。

 砕かれた痕もない。


 ただ――

 引き返したような、跡。


 それを見て、

 知っている側の連中は、明らかに動揺していた。


「闇が、判断している……?」


「そんな前例は――」


「いや……」


 誰かが、声を落とす。


「一つだけ、ある」


 全員が、黙る。


 俺は、その輪の外にいた。


「……何の話だよ」


 問いかけても、

 誰もすぐには答えない。


 刃の男が、ゆっくりと口を開く。


「“王”が、動く前兆だ」


 空気が、凍る。


「……逃げる闇は、

 王の意思だ」


「じゃあ、今までは」


「待っていた」


 短い言葉。


 重い沈黙。


「……待つのを、やめた理由は」


 誰かが、問う。


 誰も、俺を見ない。


 だが――

 答えは、全員分かっていた。


 その夜、

 夢は――来なかった。


 代わりに、

 目を閉じている“現実”があった。


 街が、静かすぎる。


 音が、遠い。


 そして――

 影が、すべて同じ方向に伸びている。


「……来てるな」


 宝珠が、冷たい。


 熱を持たない。


 初めての感触だった。


 高架の上。

 見下ろす街。


 そこに――

 何かが、立っている。


 人の形。

 だが、人ではない。


 顔は、見えない。

 輪郭だけが、揺れている。


「……やっと、出てきたか」


 声が、震えない。


「出たわけじゃない」


 風もないのに、

 空気が波打つ。


「立っただけだ」


「同じだろ」


「違う」


 静かな否定。


「お前が、動かした」


 胸の奥が、微かに疼く。


「……知らねぇよ」


「知っている必要はない」


 影が、一歩、前に出る。


 街灯が、次々と消える。


「だが、

 このままでは――

 均衡が、壊れる」


「壊してるのは、そっちだろ」


「違う」


 影の声が、

 初めて――

 感情を帯びた。


「壊しているのは、

 “選ばない存在”だ」


 俺は、笑った。


「光栄だな」


「褒めてはいない」


 影が、さらに近づく。


「お前は、

 どこにも属さない」


「闇にも、

 人にも」


「人だ」


 即答だった。


「……そう思えるうちは」


 その言葉が、

 胸に引っかかる。


「何が言いたい」


「選択の時が、近い」


「俺は、選ばない」


「それもまた、選択だ」


 影が、

 ゆっくりと――

 後退する。


「次は、

 言葉では済まない」


 気配が、消える。


 街灯が、戻る。

 車の音。

 人の声。


 世界は、何事もなかったように続く。


 だが。


 宝珠が、

 わずかに――

 ひび割れた音を立てた。


「……冗談だろ」


 表面に、細い線。


 すぐに、消える。


 幻かもしれない。


 でも。


 確かに、

 均衡は――

 揺れた。


 俺は、空を見上げる。


「……動いたな」


 誰に言ったわけでもない。


 ただ、分かった。


 闇の王は、

 もう――

 待たない。


 そして。


 俺も、

 ただ殴るだけでは――

 済まなくなる。

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