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最終話別れと始まり

偶然だと思っていた。

同じクラスも、隣の席も、同じ部活も。

重なれば重なるほど、それがただの偶然でいられるはずがないと――

気づき始めていた頃だった。


そんな日常に、ひとつの言葉が落ちる。


「恒一くん、転校するらしいよ」


噂ではなく、現実として。

(梨緒視点)


朝、教室に着くと、空気が静かだった。

いつもなら、友達の笑い声や、机のきしむ音が混ざるはずなのに。


私は席につき、いつも通り隣を見る。


恒一くんは、まだ来ていない。

そんなだけの理由では片づけられない予感が、胸に刺さる。


ホームルームが始まった時、担任が言った。


「突然だけど――太田恒一は、来週で転校することになりました」


世界が、少しだけ揺れる音がした。


黒板の文字も、教室の窓から見える校庭も、

全部が遠くなるような感覚で、

私はただ先生の声を聞いていた。


理由は、家族の引っ越しだという。

仕方のないこと、誰にも止められないこと。


分かってはいた。

それでも――心が追いつかなかった。


放課後、気づけば私は階段を上っていた。

屋上への扉の前で立ち止まり、息を整え、扉を開ける。


そこには、恒一くんがいた。


気づいた彼が笑う。

いつも通りの、落ち着いた笑顔。


「聞いた?」


私はうなずいた。

何を言えばいいかわからなかった。


代わりに、心が問いかけた。

(なんで言わなかったの……?)


でも声に出たのは別の言葉だった。


「……そっか」


たったそれだけ。

でも、声が少し震えた。


恒一くんは空を見つめたまま話す。


「急に決まったんだ。

 自分でも、まだ実感ない」


私は返す言葉を探した。

胸が苦しいのは悲しいから?

それとも――怖いから?


たぶん両方だった。


(恒一視点)


梨緒の声の震えを聞いた瞬間、

胸がひりつくように痛くなった。


「ごめん。言えなかった」


そう言いながら、

自分でも気づいていた。


梨緒に伝えることが、

いちばん怖かったんだと。


毎朝の席。

部活で話す何気ない会話。

偶然の積み重ねが嬉しくて、

心が離れられなくなる前に――

終わりが来てしまった。


「……ここ、楽しかったよ」

俺の声は、自分でも驚くほど弱かった。


梨緒は、かすかに笑った。


「私も。

 すごく」


そして二人の間に、

静かな風が吹き抜けた。


言葉は少ない。

でも、それで十分だった。


(梨緒視点)


転校前日。

恒一くんの机の中に、

一枚の小さな紙が入っていた。


『ありがとう。

 また会おう。

 偶然じゃなくて――必然として。』


読んだ瞬間、

涙は出なかった。


代わりに、笑えた。


(そっか――終わりじゃないんだね)


最終場面:昇降口(梨緒視点)


恒一くんが靴を履き替え、

私たちに向き直る。


クラスメイトが手を振り、声をかける中、

私は一歩だけ前に出た。


「元気でね」


恒一くんは少し驚いて、

そして笑った。


「梨緒もな」


それだけの言葉。

だけど、それが全部だった。


校門を出る背中を、

私は最後まで目で追った。


悲しいけど、

心は不思議と前を向いていた。


(また会えるって――信じられるから)


風が吹いた。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。


最終話では、

「別れ」と「再スタート」を描きました。


恋をはっきり描くのではなく、

偶然の出会いが、必然のつながりに変わる予感で終えることで、

読者に未来を想像してもらう形にしました。


もし番外編や続きがあるなら、

二人の再会編や、

恒一の転校先での生活、

梨緒の成長など、深めることもできます。


ここまで書いてきた物語が、

読んだ人の心に少しでも残るなら嬉しいです。

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