表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第四話春の校外学習

春の空気に包まれた校外学習は、

ただの行事のはずだった。


けれど、教室を離れた場所で過ごす一日は、

二人の距離を、いつもと少し違う形に変えていく。

(梨緒視点)


朝の教室は、いつもより賑やかだった。

校外学習の持ち物を確認しながら、

私は胸の奥が少しだけ高鳴っているのに気づいた。


「梨緒、今日さ、相沢くんと隣座る?」

隣の席の友達が、笑いながら言った。


「どうだろ……わかんないよ」


否定したつもりなのに、

声が小さくなってしまう。

自分でも、なんで反応が鈍いのか説明できなかった。


教室の前で点呼が始まる。

ちらりと隣を見ると、相沢くんはいつも通り静かで、

それを見て私は少し安心した。


(恒一視点)


バス乗り場に向かう列。

話し声と足音が入り混じって揺れる空気の中で、

木下さんの背中だけが、妙に気になった。


座席は自由。

友達同士でくっついて座る人たちの声が響く。


俺は、迷っていた。


隣に座るのは自然か。

それとも、変に思われるだろうか。


視線の先、木下さんの横の席が空いている。

心臓が一度大きく跳ねた。


気づいたら、足がそっちへ向かっていた。


「隣、いい?」


木下さんが少し驚いた顔をして、

すぐに小さく頷いた。


それだけで、

窓から入る春の光が明るく見えた気がした。


(梨緒視点)


バスが動き出すと、

最初の会話はぎこちなかった。


けれど沈黙は続かない。


「文芸部って、校外学習でも課題あるのかな」


私がなんとなく呟いた言葉に、

相沢くんは肩を揺らして笑った。


「まさか。先生が荷物増やすタイプじゃないし」


会話が普通に続く。

日常と同じ距離のはずなのに、

近さだけは違った。


揺れるバスの中、

話すたびに目が合う。

それだけで少しだけ落ち着かなかった。


(恒一視点)


散策先の広場に着いた。

四人一組の班行動で、

俺と木下さんは同じ班になった。


歩きながら、

木下さんが地図を覗き込む。


「この碑、道案内の建物の近くみたいですね」


その声は真面目で、

少し楽しそうで、

なんだか嬉しくなる。


友達二人が先を歩き、

俺は木下さんと並んだ。


「木下さんって、方向感覚いいんだな」


口にしてから、

少し照れくさくなる。


「そうかな? 普通ですよ」


返ってきた言葉が柔らかくて、

少しだけ肩から力が抜けた。


(梨緒視点)


お昼の時間。


シートを広げると、

偶然座った位置が相沢くんの隣だった。


お弁当の包みを開きながら、

ふと横を見る。


春の風が相沢くんの髪を揺らして、

その姿が柔らかく見えた。


なんだか、

話したくなってしまう距離だった。


「……楽しい?」


無意識に聞いた私の問いかけに、

相沢くんは少しだけ目を細めた。


「うん。まあ、いつもよりは」


それだけで、胸が少し温かくなる。


(恒一視点)


帰りのバスで、

木下さんは少し眠そうだった。


外を流れる景色を眺めながら、

俺も少しだけ目を閉じる。


ガタン、と揺れた瞬間、

木下さんの肩が俺に触れた。


驚いたけど、

離れられなかった。


ただ、静かに座ったまま、

その距離を受け入れた。


心臓が落ち着かないのに、

その時間は短く感じた。


“今日、何が変わったんだろう”


答えはまだわからない。

ただ――少し楽しみになった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

今回は、学校を離れた一日だからこそ見える、

二人の距離の変化を書いてみました。


偶然座った隣の席、

友達と歩く並び順、

帰り道の眠気。


どれも日常の延長なのに、

教室とは違う空気が流れることで、

二人の関係が少しだけ形を変え始めます。


まだ恋と呼ぶには早い。

けれど“気になる”が芽のように顔を出し、

それを自覚するにはもう少し時間がかかりそうです。


次回は、校外学習を終えたあとの学校生活。

行事が終わった後に残る感情や、

小さな変化を描いていきたいと思います。


ここまで読んでくれた読者のみなさん、

本当にありがとうございます。

次話もどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ