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第二話不思議な感覚

隣の席という距離は、思っているよりも近い。

声の高さも、息遣いも、ふとした仕草も。


意識しなければ、ただのクラスメイト。

意識してしまえば、少しだけ落ち着かない。


これは、まだ恋と呼ばない感情が、

静かに動き始める話。

(梨緒視点)


朝の教室は、まだ完全には目を覚ましていなかった。

カーテン越しの光が、机の表面をぼんやり照らしている。


私は席に座り、鞄からノートを出す。

それから――隣の席を見る。


……まだ、来てない。


別に理由はない。

ただ、そう確認しただけ。


チャイムが鳴る直前、教室の後ろの扉が開いた。


「おはよう」


相沢くんが、少し息を切らして席に着く。


「おはようございます」


声が重なって、ほんの一瞬、間が空いた。

それだけで、胸の奥が少しだけざわつく。


授業が始まってしばらくしてから、

相沢くんが小さく声を落とした。


「……木下さん」


「はい?」


「ノート、忘れた」


困ったように笑うその顔を見て、

なぜか断るという選択肢は浮かばなかった。


「……どうぞ」


ノートを少しずらすと、

彼は「ありがとう」と小さく言った。


その一言が、思ったより近く聞こえた。


(恒一視点)


木下さんのノートは、やたらと見やすかった。


板書がそのまま写されているだけじゃなくて、

大事なところが分かりやすくまとめられている。


几帳面。

でも、堅すぎない。


「……すごいな」


思わず口にすると、

彼女は少しだけ目を丸くした。


「そうですか?」


「うん。助かる」


それだけの会話。

でも、なんだか居心地がいい。


無理に話さなくていい感じがする。


隣の席って、こんなだったっけ。

前の中学の記憶を辿っても、思い出せなかった。


(梨緒視点)


放課後、文芸部の部室は静かだった。


まだ部員は少なくて、

机の数のほうが多いくらい。


私は鞄から原稿用紙を取り出す。

白い紙を前にすると、少しだけ落ち着く。


「何書いてるの?」


相沢くんの声に、手が止まった。


「……秘密です」


反射的に答えてしまってから、

少しだけ後悔する。


「そっか」


彼はそれ以上、踏み込んでこなかった。


その沈黙が、なぜかありがたかった。


(恒一視点)


秘密、と言われて少しだけ気になった。


でも、無理に聞く気にはならなかった。

見せたくない理由があるんだろう。


「どうして文芸部に入ったの?」


なんとなく、話題を変える。


「……偶然、です」


彼女はそう言って、視線を落とした。


偶然。


クラスも、席も、部活も。

全部、同じ言葉で片づけられる。


「偶然、好きだね」


冗談っぽく言うと、

彼女は少し困ったように笑った。


「……そうかもしれません」


その表情が、頭から離れなくなった。


(梨緒視点)


帰り道、私は原稿用紙を見つめていた。


「偶然」


何度も使った、その言葉。


でも、胸の奥に残るこの感じは、

本当に偶然だけなんだろうか。


原稿用紙の一番上に、

一行だけ、言葉を書く。


その一行が誰のことなのか。

私は、まだはっきりさせたくなかった。

第二話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、まだ恋と呼ばない距離感を意識して書きました。

隣の席だから話す。

同じ部活だから一緒にいる。

理由があるようで、ない関係です。


けれど、その「理由がないはずの近さ」が、

少しずつ二人の中に残っていきます。


次回は、文芸部と教室の中で、

もう少しだけ感情が揺れる出来事を書く予定です。


よろしければ、次話もお付き合いください。

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