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私が貰った職業は最低ランクらしいのですが、スキル特攻でゴブリンを皆殺しにします  作者: 海の紅月 くらげさん


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7/7

鬼ごっこ


 静止しているゴブリンたちを尻目に、ゴブリンエンペラーがすっと息を吸い込んだ。


 グッと歯を噛み締めたと思ったら、視線を天井に移す。そして大きく口を開けた。


「ウオォォォオオオッッッ! ガォギ、ガゴォォォオオオッッッ!!!」


 洞窟全体を叩きつけるような咆哮が炸裂する。

 空気が震え、岩肌が唸り、足元から衝撃が伝わってきた。


 それでも私は、耳を塞がなかった。


 ただ、真っ直ぐに。ただ真っ直ぐに、咆哮の主であるゴブリンエンペラーを見つめ続ける。


 やがて叫びは途切れ、残響だけが微かに空気を震わせていた。

 その震えも遠ざかると同時に、洞窟は先程までの喧騒が嘘のような静寂に包まれた。


 ゴブリンエンペラーは、私を睨みつけ、そして私のように動くことはしない。睨みだけで、場を支配する。


 ゴブリンエンペラーの目からの威圧だけで、空気がピリピリと痛い。肌に針を当てられているようだ。

 これでも私はスキルに守られている状態。スキルが無い状態なんて考えたくもない。


 私の視界に入っている小さなゴブリンたちは、私と同じ威圧をじかに受けているのか、体をガクガクと震わせていて、立ったままに泡を吹いていた。



 スーッと息を吸い、長く吐く。それをもう一回繰り返す。吐き終わり、グッと足に力を込める。


「全速力でッ!」


 スっと、ゴブリンエンペラーへの視線を切る。


 そして、視界に浮かぶカーソルに従い、指し示された洞窟の穴へと全速力で駆け出す。


 穴に身を滑り込ませた、その瞬間。


 ドァンッ!


 地面が裏返るような衝撃と轟音が背後から叩きつけられる。


 一瞬で理解した。


 ゴブリンエンペラーが、追ってきていることを。


 ガンッ! ガンッ! ズガガガッ!


 穴に入ってなお、後ろからの振動が強まっている。


「全速力で走ってるのに、あんな巨体でココ通れるのは嘘でしょ」


 見ないでもわかる。ゴブリンエンペラーは穴を掘り進んで来ている。



 NEWと来て、【英雄:リゼリア・位置情報更新中】と目の前に出てきた。


「なに? 更新?」


 英雄の場所を指し示していたカーソルも固まってしまった。


「待って、英雄は動いてるの? 捕まってるなら動かないはず……ていうことは」


 走りながら舌打ちする。


「ゴブリンと一緒にいる可能性が高い」


 前に繋がる穴は枝分かれしていって、通り過ぎる度に、枝分かれする通路は狭く、天井が低くなる。


 迷えば終わりだが、これ以上ゴブリンエンペラーが追って来れなくなると思うとラッキーだ。



 できるだけ通路が狭い道を選んで走ってきた。ついに私の運も尽きる。


「行き止まり」


 しかも通路の先は体育館ぐらいに広い。


「運と体力だけは自信があったのに」



 ピッ!


 視界に、薄く光る線が伸びる。

 英雄のいる方向への最短距離を示した。


 それは私の進行方向、よりも少し右。


「……ありがたいけど、このガイド、優しくはないね」



【英雄まで10m】



 示された方向には、壁。


 道はここで、行き止まり。


「本当に最短距離。ということは」


 走りながら、ポンっと目の前の壁にジャンプして、壁に両足を預けた。


「体育の授業ぶり」


 脳裏に失敗がチラつく。


「でも!」


 ふわっと背面跳びで、後ろに飛ぶ。


 私はハードルを飛び越えるように、弧を描く。


 頭上を巨体が通過した。


「こいつを使えってことね!」


 ドォンッ!!!


 背後で、大きな音が鳴る。


 空中で縦に一回、さらに一回転をし、地面に両足をつけて着地する。


「10点!」


 頭を上げると洞窟の壁が無くなり、粉塵が舞っていた。


 ゴブリンエンペラーは、道なんて選ばない。


「背面跳び、結構上手く決まったんじゃない」


 私は、迷わずその出来たての道に飛び込んだ。



 落ちている松明が一本。


 その揺れる炎に照らされて、一人の少女が床に座り込んでいる。


 年の頃は、私と大きくは変わらない。


 だが、服はところどころ裂け、灰色に染まり、踏み荒らされた跡でぼろぼろだった。


 手首には、手錠があって、髪は何度も掴まれ、引きずられたのだろう。不自然に束なった髪が混じっている。


 尻もちをついたまま、彼女は顔を上げた。


 大きな瞳。

 怯えきっているはずなのに、その瞳は折れていなかった。視線は逃げず、松明の炎越しに、私をまっすぐに捉えている。


「リゼリアちゃん」


 私の口から少女の名前が出てきた。間違いないと確信する。


「まぁ、捕まってる人は一人って知ってたし」


 軽口を言った直後、背後で岩が砕ける、ズンッと重い音がした。


 空気が、沈む。



 壁を壊した張本人が、私の後ろにいる。


 ゴブリンエンペラー。


 松明の炎が、引きずられるように横へ揺れた。

 光が歪み、影が異様に引き伸ばされる。


「くっ!」


 ありったけの力を足に込める。スタートダッシュを決めて、リゼリアちゃんを両手で抱える。


 チッ、と後ろに掠った感触があった。


 左からの爆風にやられて、横方向に回転する。



 四、五と回転して、キュッと止まる。


 ゴブリンエンペラーと私の視線が合う。


 唸り声が、喉の奥で低く鳴った。それは咆哮ですらない。『逃がさない』という意思表示だった。


 ゴブリンエンペラーの威圧で、少女は息ができないはずなのに、その奥で、必死に足掻いている。


 ただ強い意志を瞳に残して。


「これが英雄」


 私は、そう直感した。

 理由は分からない。ただ、そう感じた。


 捕まり、怯え、傷つけられ、それでもなお、折れなかった少女は、勇気をくれる。



【敗北しました】


 私の視界の中央には、見たくもない文字が羅列され、息が荒くなり、膝が笑った。







楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!

作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!


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