出口
◇◇◇◇
ドンドンと、背後で爆裂音が響く。
ゴブリンエンペラーが私の走っている道を壊し回っているのだろう。
怖くて振り返れない。振り返る余裕もないけど。
進路を妨害するように小さなゴブリンたちはワラワラと集まってきた。でもまだまとまった数じゃない。これなら触れられる前に抜けられる。
小さい頃から森を駆け回っていた田舎者の私は、鬼ごっこでは、『脱兎の日向ちゃん』と友達から恐れられていたぐらいだ。
ノロマなゴブリンに私を捕まえられるはずがない。
そんな風に考えていたら、前方の進路を塞ぐゴブリンの数が、目に見えて増えてきた。
ゴブリンたちの表情も険しくなり、必死さも出てきて、逃がすまいと身構えている。
「おっ、こっちで出口はあってるんだね」
私は走りながら呟いた。ゴブリンの表情から出口を予測する。
「君たちはもう少しポーカーフェイスを練習した方がいいかな」
ふっ、と呼吸を止める。
足に溜めを作り、一気に解放すると、上方向に大きくジャンプする。小さなゴブリンたちの頭上を越えるジャンプだ。
ループ状に飛び越える。壁を蹴り、着地地点も変える。そんなの朝飯前だ。
スキルで向上してる身体能力と、田舎で培われた身体の使い方をもってしたら、今の私は誰にも捕まらない。
ピコンッ!
「ん!?」
視界の真ん中に『NEW』と来て、続く文字に【ミッション:英雄を助けろ】とあった。
「英雄? ミッション? なにそれ?」
ピピピピッ!
【洞窟出口まで150m】
視界に、出口を示す矢印と距離表示が現れた。数字は、走るたびに減っていく。
点滅する【ミッション】が鬱陶しい。
「なに私が助けろってこと?」
私の声に反応してか、ピタッと点滅が止まる。
「助けるって、ここに捕まってるってことでいいんだよね」
ピッ!
電子音が鳴ると、視界の端に【捕まっている人:1人】と、今欲しい情報が表示された。
「一人。……それにしても、視界に表示されるの便利すぎる。これスキルの効果? それともこの世界の仕様?」
ピッ!
【英雄:リゼリア・11歳女】
「うわっ、詳細まで表示された。この世界、プライバシーとかないの?」
【英雄:???・?歳性別?】
「いや、もう遅いし、それいらない。ただ言っただけ」
【英雄:リゼリア・11歳女】
「そうそう。それでいい。……私、何やってるんだろ。スキルに話しかけちゃってるよ」
視界の真ん中を占領していた【ミッション】を手で弾いた。
はぁっとため息を吐けば、右端で綺麗に整頓された【ミッション】がチラつく。
「こんな所に女の子が一人で捕まっている。でも今出口へ行けば私は絶対に助かる」
出口はあと少し。
「私が女の子を助けに行ったところで、二人とも助からなかったら意味が無い」
そんなことは分かっている。けど、けど、走りながら頭を左右に振る。
「出口か、ミッションか。……あぁ、ううぅッ!」
私の口からなんとも言えない苦悶が漏れた。
ミッションの矢印は下に、出口の矢印は上にと指し示すカーソルが二つに分かれた。
「ミッションなんて関係ない!」
そう切り捨てて、シッカリと出口のカーソルを見る。
そうして、パンッ! と道を蹴り、道の無い空中へ飛ぶ。
螺旋状の道から逸れたことで、ゴブリンエンペラーも、小さなゴブリンたちも、私の突飛な行動に足を止め、ただ黙って見送っていた。
「……ほんと、分かりやすすぎ」
飛んだ浮遊感があり、その浮遊感も続かぬまま、落下する。
「レアランクFにはご都合すぎるスキルの数々。そのスキル取得も私が死ぬ寸前」
地面が急速に迫る。
「どこかで見てるんでしょ。あなたが神様でも、誰でもいい」
私は覚悟を持って、言葉にする。
「その英雄が大事なら私に力を寄越しなさい!」
ピッ!
【『着地ダメージ無効』を新たに取得しました】
私の体が地面に触れると、ドンッ! と、着地では聞いたことがないような音が鳴る。
「……で」
地面に手を着く、四つん這いから立ち上がり、上を見上げ、ゴブリンエンペラーを見る。
「どこ、その英雄は」
私の声とリンクしているのか、シュンッ! と、目指す場所が出口からミッションに切り替わる。
「私は、見捨てる側の人間にだけはなりたくないの。今までもそうしてきた」
この選択に迷いはない。
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