2- 29 成仏で依頼完了?
美伽は、結羽から発せられた場違いな言葉に呆然としていた。それを耳にした田中や阿手川清美は訝しげな目で結羽を見つめている。一方、礼子は微かな笑みを浮かべていた。
「報酬って、お墓参りのこと?」
「そうです。清美さんや翔さんは、悪霊化を免れて浄化できていると判断しました。だから、美伽さんからの依頼は達成できたと考えてます」
結羽は微かな笑みを浮かべながら美伽に依頼完了の報告をした。
「でも、お姉ちゃんたちがまだ幽霊のままでいるってことは、成仏していないってことでしょ?」
「正確には、まだ成仏してないです」
結羽は、美伽からの反論を自信ありげに受け止めた。
「じゃあ、まだ依頼完了できてないじゃないの」
「分かりました。そこまで言うんでしたら、清美さんや翔さんを成仏させますね!」
少し不服そうな美伽とは対照的に、結羽は意味ありげな笑みを浮かべたままだ。
「では、美伽さんからの依頼を受けていますので、今から清美さん、翔さん、優美ちゃん、あとは田中さんも一緒に成仏して頂きまーす!」
結羽は、わざとらしく明るい声をあげた。突然のことに驚く阿手川清美たち。このとき、結羽は阿手川清美や田中に向かってウインクしながら軽く頷いて見せた。結羽からの意味ありげなサインに気づいた浮遊霊たちは、結羽には何か考えがあるに違いない、と察した。
「安堂さん、ちょっと待って。もし成仏したらお姉ちゃんたちはどうなるの?」
美伽が慌てたように結羽に尋ねた。
「成仏したら今すぐ消えちゃいますね」
「えっ!」
結羽の返答に、美伽は驚き、黙り込んでしまった。
「では、成仏の儀式を始めるので、清美さんたちは一列に並んでくださーい」
結羽は、明るく、わざとらしい物言いで阿手川清美たちに声をかけた。すると、阿手川清美たち浮遊霊は文句ひとつ言わずに結羽の指示に従った。
それを見た美伽は慌てて立ち上がった。
「安堂さん、ちょっと待って! 成仏させなくてもいいわ。私からの依頼は完了ということでお願い!」
「でも、いつまでも清美さんたちを浮遊霊のまま彷徨わせるわけには······」
「もういいの。だって成仏したら、お姉ちゃんも淳も消えちゃうんでしょ。そんなの、私、嫌よ!」
結羽は考えるふりをして見せた。阿手川清美たちは、結羽が発する次なる言葉を待った。
「分かりました。では、依頼は完了ということで、私への報酬をお願いしますね」
結羽は、満面の笑みを美伽に向けた。
「安堂さんへの報酬は······私が、お姉ちゃんや翔さん、淳の墓参りをすることだったよね?」
「はい。墓参りは1回だけじゃなく、最低でも5年間はお願いします」
「5年間も毎日墓参りしなくちゃダメなの?」
「毎日じゃなくてもいいです。そうですね、週1回にしましょう!」
「週1回の墓参りを5年間。長いな······」
美伽が不服そうに呟くと、田中が彼女の左肩に手を触れた。
「美伽は、俺のこと愛してるんだろ?」
「当たり前じゃないの!」
「だったら、毎週、墓参りに来てくれよ。清美さんや翔さんのお墓参りもしてあげたら喜ぶはずだよ」
美伽が黙り込むと、阿手川清美と翔が美伽に近づいてきた。
「美伽が私と翔、できたら優美のことも5年間供養してくれたら嬉しいな」
阿手川清美が微笑みながら美伽に伝えると、優美を抱っこしている翔も笑顔で頷いた。
美伽は、翔に抱かれている優美を見つめた。優美は美伽を見つめ返すと、にこりと笑った。優美の純粋な笑顔に誘われたかのように、美伽も思わず笑みを漏らした。
美伽は、結羽に顔を向けると頷いた。
「分かった。5年間、優美ちゃんを含めた4人の供養をしっかりしていくよ」
「約束ですよ」
「うん。じゃあ、約束を守る誓約書を書いて安堂さんに渡すわ」
「誓約書は必要ないです。美伽さんを信じてますから」
結羽の言葉に、美伽は微笑みながら頷いた。
(つづく)




