2 - 25 背後霊からの思わぬ言葉
結羽は、初めて美伽が笑うのを見た。その瞬間、美伽が再び生きる気力を取り戻すことに希望を感じた。
「美伽さんが笑うの、初めて見た」
結羽は隣に座る美伽に微笑みを向けた。
美伽は「えっ!」と驚きの声を漏らすと、結羽を見つめた。そんな美伽を結羽は見逃さなかった。
「美伽さん。人は死んでも、霊として生き続けるの。美伽さんには見えないかもしれないけど、すぐ傍には清美さんや田中さんが美伽さんを見守ってくれている。だから決して孤独じゃないの」
結羽は美伽の両手を掴みながら力説した。美伽は結羽の目をじっと見つめた。しかし、すぐに目を伏せてしまった。
「安堂さんが言ってることは正しいと思ってる。でもね、頭では分かっていても、幽霊になってるお姉ちゃんたちの存在を実感できないわ」
美伽の言葉に対して、結羽は何も言えなかった。
結羽には霊が見える。だから霊の存在を実感できる。その反面、美伽には霊を見る能力がない。美伽が言うように、霊の存在を実感できないのは自然なことであり、むしろ大半の人々にとって当たり前のことだった。
美伽さんに清美さんや田中さんの姿を見せることができたら······。
結羽は自分が備える霊感の限界、無力感を覚えてうつむいた。
「霊感がない人でも、ほんの少しだけなら幽霊を見ることができるかもしれないわ」
突然、今まで黙って事の成り行きを見守っていた美伽の背後霊である礼子が呟いた。
結羽は驚いて、美伽の真後ろで立っている礼子を見つめた。
「礼子さん、それ本当なんですか?」
「はい。私、今までいろんな人の背後霊をしてきたんだけど、過去にあなたみたいな霊感のある人の背後霊をしたことがあるの」
結羽は雷に打たれたように目を見開いて礼子を見つめた。
そういえば礼子さんの服装って令和らしくない。洋服だけど、昭和よりも古い感じがする。もしかして明治の頃に亡くなられた方なのかな······。
「安堂さん?」
突然、美伽の声が結羽の思考の中に入ってきた。
「あ、ごめんなさい。いま美伽さんの背後霊の方とお話してたんです」
「私の背後霊? どんな人なの?」
「すごく素敵なマダムといった感じです」
「そうなんだ」
美伽の反応は薄かったが、礼子は「マダム」と呼ばれたことが嬉しかったのか笑みを浮かべた。
「霊感がない人でも霊を見ることができる方法······」
結羽の言葉に美伽は驚いて振り返った。当然、美伽には礼子の姿は見えていないが「霊を見ることができる」という言葉に期待を抱いたようだった。
礼子は頷いた。
「その方は霊感が非常に強く、様々な能力を備えていたわ。例えば、霊感がない人の額に触れただけで、触れられた人は一時的に霊を見ることができたの」
結羽は礼子の説明に強い関心を抱くとベンチから立ち上がった。すぐにベンチの後ろに回り込むと礼子に深々と頭を下げた。
結羽と礼子の会話を黙って耳にしていた阿手川清美や田中たちも興味を抱いたらしく、礼子を注視した。
「礼子さん、詳しく教えてください!」
礼子は、頭を下げた結羽の左肩に触れながら困ったような表情で笑みを浮かべた。
「結羽さん、頭を上げて。私が守っている美伽さんを助けるためだから、結羽さんには協力を惜しまないわ」
「ありがとうございます!」
結羽は頭を上げると、期待に胸を膨らませながら明るい声をあげた。
(つづく)




