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慰霊師  作者: 皇南輝
第2章 交差点で佇む美女の霊
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2- 23 祈るような気持ち

 血まみれの翔は、優美の頬を右手で包み込むように触れ、そのまま阿手川清美の上半身ごと抱きしめた。


「あ!」


 その様子を興味深く見つめていた結羽は、思わず声をあげた。


 血まみれで無惨な姿をしていた翔の全身が白く光りだしたからだった。

 光りだした翔の痛々しい全身が次第に変化していく。破壊されていた顔面や腹部、ちぎれた腕がみるみるうちに復元していった。

 翔が優美を両手で抱き上げたとき、彼は白いワイシャツとカジュアルなパンツ姿の清潔感あふれる青年に変化していた。


「優美、パパだよ」


 翔は優美に頬ずりしながら愛しそうに抱きしめた。そんな様子を微笑ましく見つめていた阿手川清美は立ち上がった。

 そのとき、結羽は気がついた。

 阿手川清美の額に見えていた血が消え去り、清潔感あふれる白いワンピース姿に変化していたのだ。


「パパ、ママ、ケンカしないで」


 優美は翔の腕の中から両親に訴えた。その幼い願いを耳にした翔と阿手川清美は、お互いに相手の顔を見た。

 二人は見つめ合うと黙って頷いた。


「清美、俺が悪かった。許してほしい」


 翔は優美を抱きしめたまま、阿手川清美に許しを乞うた。

 阿手川清美は、翔を見つめたまま首を微かに振った。


「私こそ、あなたの命を奪うという取り返しのつかないことをしてしまったわ」


 阿手川清美は罪悪感で胸がいっぱいになり苦しそうにうつむいた。そんな阿手川清美を翔は優しく抱き寄せた。


「俺は一時の感情に負けて他の女へ走ってしまったんだ。自業自得だよ」


「翔、ごめんなさい」


 阿手川清美は、翔の胸のなかで嗚咽した。


 結羽は、翔と阿手川清美が和解し許し合う様子を見て、まるで映画のハッピーエンドを見ているかのように心を震わせていた。


 結羽は指先で涙を拭うと“親子”に近づいた。


「優美ちゃんのおかげで、お二人が元の姿に戻ることができて良かったです」


 翔が結羽からの視線や言葉に気がついた。


「君が優美を連れてきてくれたのか?」


「いえ、私が連れてきたわけじゃないんです。突然、優美ちゃんが現れたから私もビックリしてるんです」


 結羽は微笑みながら優美を見つめた。

 優美は結羽に顔を向けると、無言のまま頷いた。結羽は、その意味が分からず、笑みを浮かべたまま首を傾げた。


「私ね、お姉ちゃんの声が聞こえたから、ここに来たの」


 突然発した優美の言葉に、結羽はさらにわけが分からなくなった。


「優美、どういうことなの?」


 阿手川清美が優しい口調で優美に尋ねた。


「争い合うパパとママを何とかしてほしい、というお姉ちゃんの気持ちが私に届いたの。だから、私は来たの」


「安堂さん、そうなの?」


 優美の言葉に阿手川清美は便乗するように結羽に尋ねた。

 結羽は、恥ずかしそうに頷いた。


「争ってる二人を見ながら、確かに、神様に『何とかしてほしい』と祈るような気持ちになってました······」


 阿手川清美は、優しげな笑みを浮かべながら結羽に近づくと、その手を両手で握った。


「ありがとう、安堂さん。あなたのおかげで、家族がひとつになれたわ」


 阿手川清美は結羽に感謝を述べた。しかし、結羽には疑問が浮かんだ。


 そもそも、阿手川清美さんは、なぜ私に嘘の依頼をしたんだろう?


 結羽は、率直に尋ねてみた。すると、阿手川清美は申し訳なさそうに結羽から視線を外し、落とした。


「婚約者に裏切られて自殺した私の気持ちを知ってほしかったの。ごめんなさい······」


 阿手川清美は沈んだ声で答えた。


「でも、結果として安堂さんに助けられたわ。妹の美伽もお世話になったみたいだし、あなたには感謝してもしきれない」


「いえいえ、私は大したことしてません······」


「そうだ、思い出したわ。約束通り、あなたに報酬を渡さないといけないわね! 何が良いかしら?」


「え、報酬ですか?」


 霊から「報酬は何が良いか」と尋ねられた結羽は頭の中が真っ白になった。


 霊体である清美さんに何を望めば良いんだろ?


 結羽は唸りながら考え込んだ。

 報酬といえば、本来なら金銭だ。しかし、阿手川清美は霊なので金銭を支払えない。

 そのとき、結羽の視界に美伽の姿が入った。


 そうだ、これにしよう!


 結羽は、良い考えを思いついた。




(つづく)

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