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慰霊師  作者: 皇南輝
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2- 20 結羽からの条件

 結羽は、美伽からの依頼を受けることに決めた。ただし、条件があった。

 その条件は決して利己的なものではなく、彼女の婚約者だった霊・田中との約束を果たすものでもあった。


 美伽は、結羽が浮かべた突然の笑みに戸惑いを覚えた。それは田中も同じだった。


「結羽、美伽を困らすような条件はやめてくれよ」


 田中が結羽の耳元で囁くように言った。


「大丈夫。これは美伽さんのためだから」


 結羽は、まっすぐ美伽に笑みを向けたまま答えた。結羽の言葉の意味が分からない美伽は首を傾げた。


「依頼を受ける条件が、私のためになるの?」


 美伽が尋ねると、結羽は「はい」と答えた。


「条件というのは······美伽さんが3人の墓参りをすることです」


 思わぬ条件を口にされた美伽は驚きの声をあげた。一方の田中は、結羽が出した条件をすぐに理解できず、考え込んだ。


「墓参りって······誰の?」


「美伽さん、分かりませんか? 私には、その3人が見えてますよ」


 結羽は笑みを浮かべたまま、わざとらしく周囲を見渡した。そんな結羽の動きを目にした美伽は、ハッとした表情を浮かべた。


「3人というのは······私の婚約者である淳と、私のお姉ちゃん。そして、お姉ちゃんの婚約者だった翔さんのことね!」


「そのとおりです。毎週、その3人の墓参りをしてほしいんです」


 結羽は笑みを浮かべたままだったが、その目は真剣だった。美伽は、結羽からの思いもよらない条件に戸惑いをみせた。


「さすが、結羽。俺には結羽の意図が分かったよ」


 田中が結羽に笑顔を向けた。結羽は田中に顔を向けると、笑顔で頷いた。


 美伽さんが、これからずっと墓参りをすることが、彼女にとって生きる目的になるはず!


 結羽は、そうあってほしい、と願うと同時に、彼女は必ずこの条件を飲む、と確信していた。


 しかし、美伽は黙り込んだままだ。


 結羽と田中、そして美伽の背後霊である礼子は美伽の返答を真剣な表情で待っていた。


 そのときだった。突然、美伽は声をあげて泣き崩れてしまった。しゃがみ込んで両手で顔を覆い泣き声をあげる美伽に対して、まわりの通行人だけでなく現場検証をしていた警察官たちも顔を向けた。すぐに、若い警察官のひとりが結羽に向かって歩いてきた。


「どうかされましたか?」


「実は、事故をされた方が彼女の知り合いだったみたいで······」


 警察官からの問いかけに、結羽は咄嗟に答えた。


「そうでしたか。それはお気の毒です······」


 警察官は泣き崩れている美伽に会釈をすると、警備位置へと戻っていった。


「美伽さん」


 結羽は、しゃがみ込むと、美伽の顔を覗き込むようにしながら声をかけた。


「私、淳だけじゃなく、お姉ちゃんまで失って······。そのうえ、お姉ちゃんの婚約者だった翔さんまで亡くなってしまって······。みんな、みんな私からいなくなっちゃった」


 結羽は、嗚咽する美伽を見つめながら、思わず目に涙を浮かべた。


 ひとり取り残される気持ちは、孤児院で育った結羽には痛いほど理解できた。

 結羽は美伽の肩を優しく抱いた。同じように、田中や礼子も美伽を取り囲むように霊体を寄せた。


 そのとき、結羽は背後から強い霊気を感じて、反射的に振り向いた。すると、美伽の背後に阿手川清美が立っていた。


「美伽」


 阿手川清美は、泣き崩れている美伽に背後から声をかけた。しかし、霊感の無い美伽には、その声は届いていない。

 結羽は立ち上がって阿手川清美に体を向けると、黙ったまま首を横に振った。


「そうよね。美伽には私の声が聞こえないのよね」


 阿手川清美は寂しげな笑みを浮かべた。


「清美さん。私、美伽さんから依頼を受けました」


 結羽は、美伽からの依頼内容を阿手川清美に伝えた。結羽から、美伽の依頼内容を伝えられた阿手川清美は、しゃがみ込むと、悲しみで震えている妹の肩を優しく抱きしめた。


「美伽、ごめんね······」


 阿手川清美は、美伽に言葉をかけた。すると、美伽は声をあげて泣くのをやめ、鼻をすすり始めた。


「美伽さんは、清美さんが翔さんの命を奪ったことを嘆いているんですよ。どうしてそんなことをしちゃったんですか?」


 結羽は、つい感情的になって語気を強めた。


 阿手川清美は、何も答えなかった。ただ、美伽の髪を優しく撫でている。


 結羽は、ふと寒気を感じて振り向いた。すると、いつの間にか、血だらけの霊である阿手川清美の婚約者・翔が立っていた。

 翔は黙ったまま、ただ、阿手川清美と美伽を交互に見つめている。


 やがて、阿手川清美が立ち上がると、結羽を見つめた。その顔には悔やんだような表情が浮かんでいた。




(つづく)

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