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慰霊師  作者: 皇南輝
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2-9 男子小学生の霊が見た交通事故

 数メートル先にベンチがあり、そこには全身が透けた男子小学生が座っている。小学生5、6年生のように見える。オレンジ色の長袖服を着て紺色のジーンズを履いている。

 男子小学生は、微動だにせず正面の滑り台を見つめていた。


「こんにちは」


 結羽は男子小学生に近づくと声をかけた。しかし、反応がない。結羽は男子小学生の正面に回り込むと、前かがみになって男子小学生に顔を近づけた。


「こんにちは。私には君が見えてるよ」


 結羽が笑みを浮かべると、突然、男子小学生は「わあ!」と驚いて声をあげながらのけぞった。


「驚かせてごめんね」


 結羽は、目を丸くしながら自分を見ている男子小学生に謝ると、半歩後ろに下がった。


「お姉ちゃん、僕が見えるの?」


 男子小学生はまだ目を丸くしながら結羽を見つめている。


「うん、見えるよ」


 男子小学生は立ち上がると結羽を見上げた。


「僕の姿が見える人に初めて出会ったよ」


「そうなんだ。ところで、ここで何をしていたの? ずっと滑り台を見つめていたみたいだけど」


 結羽が尋ねると、男子小学生はうつむいて黙り込んでしまった。すぐに、ワケありなのかな、と結羽は思った。


「無理に話さなくていいよ」


 結羽が優しい口調で言うと、男子小学生は顔を上げた。


「退屈してたんだ」


 男子小学生はつまらなさそうな顔をして言った。それを聞いた結羽は、そうだろうな、と納得した。


 毎日を楽しんでいる霊なんて少ないからなー。とりあえず、この子に聞き込みだけしてみるか。


 結羽は、男子小学生に近くの交差点で起きたひき逃げ死亡事故について尋ねてみた。


「知らない」


 男子小学生は素っ気なく答えた。


「そっか、分かったよ。お邪魔してごめんね」


 結羽が男子小学生のもとを去ろうとしたときだった。突然、男子小学生が「あ!」と声をあげた。


「そういえば、交通事故の瞬間なら見たよ」


 男子小学生の言葉に、結羽はすぐに彼の顔を注視した。


「本当? 人がはねられた瞬間を見たの?」


 結羽は幾らか興奮気味に尋ねた。


「違う。車が自分からぶつかっていったの。ガシャーンと大きな音がして動かなくなっちゃった」


「動かなくなった? ねえ、それってどこで起きた事故なの?」


 すると、男子小学生は南の方角を指差した。


「ここから湾岸の方に行った高速道路の下だよ」


 その男子小学生の情報は今回の依頼とは関係ない、と分かった結羽は残念そうな表情を浮かべた。


「そっか。教えてくれてありがとね」


 結羽は微かな笑みを浮かべながら男子小学生に礼を言った。


「僕、ベンツが好きなのに、クシャクシャになってしまって残念だなーと思ったから覚えていたんだ」


 男子小学生は独り言のように言葉を続けた。そのとき、結羽は「ベンツ」という言葉に何かを感じた。


「いま、ベンツって言ったよね」


 結羽が真顔で尋ねると、男子小学生は頷いた。


「うん、白いベンツだよ」


「白いベンツ! ちなみにその事故は、いつ頃の話なの?」


「こないだ」


「もっと具体的に」


「最近かなあ。よくわかんない」


 結羽は、どうしたらベンツの事故の日を特定できるか、を考えた。そのとき、カレーの香りが結羽の鼻を撫でた。

 結羽は、今いる公園の近くで3週間ほど前にカレー屋がオープンしたことを思い出した。


 結羽は、これだ!と笑みを浮かべた。


「ねえ、ベンツの事故があったときって、あのカレー屋さんはオープンしてた?」


 結羽は公園から見える茶色の店舗のカレー屋を指差しながら男子小学生に尋ねた。


「カレー屋さん······。うん、あったよ。ベンツの事故は、あのカレー屋さんがオープンしたあとに起きたんだ」


 男子小学生の返答を聞いた結羽は、単独事故を起こしたベンツが美女の霊・阿手川と関係しているような気がした。

 結羽はすぐにスマホの画面をタップすると、昨夜スマホで検索してスクリーンショットした白い『ベンツ CLA 200d』の画像を出した。そして、それを男子小学生に見せた。


「君が見たベンツって、コレかな?」


 すると、男子小学生はスマホの画面を食い入るように見つめ、やがて顔を結羽に向けた。男子小学生は笑顔だった。


「うん! そう、これだよ! このベンツの後ろ姿が、事故したベンツにそっくりだもん」


「白いベンツで間違いない?」


「うん。あのとき夜だったけど、街灯の下だったから白いベンツだとすぐに分かったんだ」


 男子小学生は、ベンツ事故の記憶が鮮明に蘇ったことが嬉しいのか、機嫌良さげに結羽に伝えた。


 結羽は、さらに肝心なことを尋ねる。


「そのとき、ベンツを運転していた人は死んじゃったの?」


「死んでないよ」


「じゃあ、救急車で運ばれた?」


「救急車も警察も来てないよ。だけど、大きなトラックが壊れたベンツを載せていった」


「え、事故を起こしたのに警察も来なかったんだ······」


「うん」


「それで、ベンツの運転手はどこに行ったの?」


「女の人と一緒に大きなトラックに乗ってどこかへ行っちゃった」


「女の人? じゃあ、ベンツを運転していたのは······」


「男の人」


 男子小学生からの情報は、結羽をなぜか嫌な気持ちにさせた。


 もし、単独事故を起こしたベンツが阿手川をひき逃げして死亡させたベンツと同じなら、運転手は男ということだよね······。


 結羽は顎に手をあてながら考えたけれど、男子小学生からの情報だけでは、まだまだ何も確信が得られない。


 だけど、結羽は、理由が分からない恐怖を心の隅で感じ始めたのだった。






(つづく)









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