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慰霊師  作者: 皇南輝
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2-5 交差点でポツンと立つ慰霊師

 翌朝、結羽はさっそく聞き込みを開始することにした。

 お気に入りのミニスカートを履き、レディースリュックを肩にかけると、いつものように左肩に白猫の霊・ホイップを乗せてアパートを離れた。

 

 依頼者である美女の霊・阿手川の死亡ひき逃げ事故現場は、アパートから歩いて10分ほどの場所にある。

 空は、灰色の曇り空。梅雨なので、いつ雨が降り出すか分からない。結羽は念のため傘を持ち歩いている。


 いま私がやれることは、やっぱり聞き込みしかないよね。生きている人たちに対しては警察が聞き込みをしてるから、私は霊に対して聞き込みをしないと!


 結羽は大通りの歩道を歩きながら「頑張ろう」と意気込んで、ひとり頷いた。左肩で座っているホイップは、ぼんやりと街の景色を眺めている。


「ホイップも協力してね」


 結羽はそう言いながらホイップに顔を向けた。


「ぼくは、なにをすればいいの?」


「そうね······」


 結羽は歩きながら考えた。


 死亡ひき逃げ事故の目撃者は人の霊だけとは限らない。もしかしたら、動物の霊も見ているかも!


「じゃあ、ホイップは動物の霊たちへの聞き込みをお願いね」


 結羽は、ホイップにも聞き込みをお願いした。あまりあてにならないかもしれないけれど、今はまさに“猫の手も借りたい”状況なのだ。


 やがて、死亡ひき逃げ事故現場である交差点に到着した。4車線道路同士が交わる大きな信号交差点だ。ここは都内の湾岸エリアなので、大型トラックなど様々な車両が激しく行き交っている。しかし、深夜になると交通量は激減し、不思議なくらい道路は静まり返る。

 そんな交差点で、3週間前の深夜にひき逃げ事故があり、若い女性が死亡したのだった。


 結羽は事故現場の交差点に到着すると、左肩にいるホイップに顔を向けた。


「じゃあ、ホイップ。聞き込みお願いね」


「わかった。なにをきけばいいの?」


「ここで人をはねた車を見た動物の霊がいたら、どんな人が運転していたか尋ねてほしいの」


 結羽がホイップに説明すると、ホイップは首を傾げた。


「よくわからないけど、いってくるね」


 ホイップはそう答えると、ぴょんとアスファルトに飛び降りた。そして、交差点角にある中古自動車販売店の敷地内へ歩き去った。


 結羽は去っていくホイップの後ろ姿を見届けると、交差点に顔を向けた。


 CL······なんだっけ? とにかく白いベンツがひき逃げしたんだから、その運転手の手がかりをつかまなきゃだね。


 結羽は交差点でひとりポツンと立ちながら、近くに霊がいないか見回した。

 昨日、この交差点にいた依頼者である阿手川は、いない。だけど、結羽は気配を感じていた。視界に霊はいないけれど、誰かの視線を感じる。


 結羽は曇り空の下、しばらく交差点に佇んでいた。いつもならどこかしらで霊を見かけるのに、探しているときに限って霊が見つからない。

 そのときだった。


「こんにちは」


 突然、右隣から声をかけられた結羽は驚いて肩をびくつかせた。声の方に顔を向けると、年齢は20代前半くらいで、紺色のスーツを着た男が立っていた。


「は、はい。何でしょうか?」


 結羽は、声をかけてきたスーツ姿の男に顔を向けた。目鼻立ちがはっきりしているイケメン風の男だ。だけど、結羽の好みではなかった。


 スーツ姿の男は結羽に対して優しげな笑みを浮かべながら口を開いた。


「さっきからずっと交差点にいるけど、誰かと待ち合わせしてるの?」


 その言葉を耳にした結羽は、かれこれ1時間は交差点で突っ立っていたことに気がついた。スーツ姿の男は、そんな結羽に違和感を覚えて声をかけてきたようだ。


「いえ、待ち合わせをしてるわけじゃないんです」


「そっか。じゃあ、どうして交差点で佇んでいたの?」


 スーツ姿の男の言葉に対して結羽は「余計なお世話」と思いながらも作り笑いを浮かべながら言い訳を考えた。

 まさか、事故を目撃した霊を探している、なんて正直に答えるわけにはいかない。


「あ、えっと、暇だから交差点でぼんやりしていたんです」


 結羽は適当に言い訳をした。すると、スーツ姿の男は笑い出した。


「暇だから交差点でぼんやりしてたんだ。君、面白いね!」


「ところで、お兄さんは誰ですか?」


 スーツ姿の男に笑われた結羽は、怪訝そうな表情を浮かべながら尋ねた。


「あ、俺? 俺は営業でこの辺りを歩き回っていたんだ。そうしたら君がずっと交差点で立っているから気になって声をかけたんだよ」


「そうなんですか。でも気にしなくて大丈夫です」


 結羽は作り笑顔を浮かべた。すると、スーツ姿の男は急に真顔になった。


「君みたいな可愛い女の子がひとりで交差点に立っていたら、もしかしておかしなことを考えてるんじゃないか、て気になるよ」


「おかしなことって?」


「例えばそうだな、飛び込み自殺、とか」


 スーツ姿の男は激しく車が行き交う交差点に顔を向けながら答えた。


「自殺って······。私、そんなことするように見えますか?」


 結羽はスーツ姿の男からの意外な言葉に可笑しくなり、思わず笑ってしまった。


「おお、笑顔も可愛いじゃん。こんなところで暇潰しするくらいだったらさ、近くのスタバで一緒におしゃべりでもしようよ」


 その言葉を耳にした結羽は、スーツ姿の男の意図に気がついた。


 なんだ、ナンパか······。


 結羽はナンパに付き合うほど暇ではないので、すぐに断ろうとスーツ姿の男を見上げた。そのときだった。スーツ姿の男の背後から中年の女性が結羽を見つめていることに気がついたのだった。




(つづく)



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