1- 25 私は慰霊師!
第1章 最終話
結羽は、孤児院の“自分の部屋”に戻った。
部屋に戻ると、ベッドの上でホイップが眠っていた。結羽は、ホイップを起こさないよう、静かにベッドに腰かけた。
結羽は何気に窓の外を見た。窓の外には孤児院の畑が広がっている。焦茶色の広い畑には子供たちが植えた小さな苗が規則正しく並んでいる。
結羽は、私も毎年畑で農作業したっけ、と子供の頃を思い出した。そのときだった。畑をゆっくりと横切るお爺さんの姿が見えた。その姿は透き通っている。浮遊霊だ。
結羽は、お爺さんの浮遊霊が視界から消えるまで見つめ続けた。
私には霊が見える。だから、これからは私の霊能力を活かした仕事をしていくんだ!
結羽は窓の外に広がる青空を見つめながら、自分が見つけた新しい道を進む、と改めて心に誓った。
仕事をしていくからには肩書きが必要ね。何にしよう? 霊能者? 何かありきたりで嫌だな。それに、私、お祓いできないし。陰陽師? 陰陽師のことさえ何も知らない私が名乗ったら本物の陰陽師に叱られちゃう。私は呪文も知らないし、印とか結界とか、全く分かんないから、悪霊退治なんて無理だし怖いし······。ゴーストバスター? それ、映画じゃん。エクソシストは悪魔祓いだし、うーん、何て肩書きにしよう?
結羽はベッドに寝転がった。すると、ホイップが驚いて目を覚ました。しかし、結羽が隣にいることが分かると、再び目を閉じた。
結羽は見慣れた白い天井を見つめながら、肩書きをどうするか、を考え続けた。
私ができることは霊を見られること、霊と会話ができること、小さな動物の霊なら私の言葉で天国へ導いてあげられること、くらい。だから肩書きは······幽霊会話士、幽霊通訳官、心霊現象解決隊、ユーレイ退治の結ちゃん······あー、ぜんぜん良い肩書きが思い浮かばないや!
結羽はスマホを手にすると時間を確認した。もう正午近い。
私はもう孤児院を離れた身だから、いつまでもここに滞在していたらみんなの負担になる。そろそろ、私のアパートへ戻ろう。
結羽はベッドから起き上がると身支度を始めた。
「ゆうは、どこいくの?」
目を覚ましたホイップが結羽に尋ねた。
「アパートに帰るの。ホイップ、もし良かったら孤児院にいても良いのよ」
「ぼく、ゆうはとかえる」
「じゃあ、私の肩に乗って」
結羽が自分の左肩に触れると、ホイップがそこへ飛び移った。
結羽は、住み慣れた自分の部屋に別れを告げるようにじっくりと眺め回すと、ドアを開けて部屋から出て行った。
院長の橘は、孤児院の正門まで結羽を見送った。結羽は橘に抱きついた。背が高い橘は結羽の頭を優しく撫でた。
「結ちゃん。仕事を始めたら、たくさんの霊を慰めてあげるのよ」
橘のその一言を耳にした結羽は、何かを思いついたように橘の顔を見上げた。
「あ、それ!」
「結ちゃん、どうしたの?」
「霊を慰める····慰霊、慰霊······師? 慰霊師! そう、慰霊師! 肩書きは、慰霊師にしよう! わあ、先生のおかげで肩書きが決まったよ、ありがとう!」
結羽は喜びの声をあげながら再び橘に抱きついた。
「先生、私の肩書き、慰霊師に決めました!」
結羽は橘の両手を握りながら満面の笑顔で報告した。
「慰霊師、変わった名称だけど、新鮮で良いわね」
「心霊現象解決の依頼を受けたら、私が霊と話して、慰めて、できたら天国へ導いて、優しく解決するんです!」
「うんうん、結ちゃんらしくて良いわ」
橘は目を細めながら結羽の頭を優しく撫でた。
「じゃあ、先生。私、行くね」
結羽は名残惜しそうに橘から離れると“ママ”のように慕ってきた孤児院の院長をじっと見つめた。
「結ちゃん、ちゃんとご飯食べるのよ。何かあったら相談するのよ」
優しげな笑みを浮かべた橘だったが、その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「うん、分かってる! じゃあ、橘先生、またね!」
結羽は満面の笑みを浮かべながら孤児院を後にした。結羽は視界から孤児院が消えると、人差し指で涙粒を拭った。そして、歩きながら青空を見上げた。
「今日から私は慰霊師! 心霊現象で困ってる人たちをたくさん助けてあげるんだから!」
結羽は、青く澄んだ空に向かって力強く頷いたのだった。
第1章 おわり




