1- 24 結羽の新しい道
結羽は、橘がなぜ霊と会話できる自分の理解者だったのかを知ったことで、より彼女に親近感を抱いた。
嬉しそうに微笑んでいる結羽に気がついた橘は、彼女を真顔で見つめた。
「結ちゃん。霊と会話できる、ということはね、別世界の人と会話できるという意味でもあると思うの。世の中には理解不能な心霊現象がたくさんあるでしょ? みんなは心霊現象を怖がるけれど、それは霊という別世界の人が何かを訴えていることが原因だと私は思うの」
確かに心霊現象には原因がある。今回の孤児院での怪現象も、四郎君の霊が私に会いたくて引き起こしたことが原因だった。
結羽はそう思いながら、無言のまま何度も頷いた。
橘は話を続けた。
「だからね、結ちゃんがもつ霊能力なら、心霊現象に困っている人たちと心霊現象を引き起こす別世界の人たちの両方を救うことができるはずなの」
「心霊現象に困っている人たちと心霊現象を引き起こす別世界の人たち······ですか?」
「そうよ。例えば、今回の件で説明するのなら、心霊現象に困っていた孤児院の人たちと心霊現象を引き起こしていた四郎君の霊の両方を結ちゃんは救ったことになるの」
「そっかあ!」
結羽は橘の説明に大いに納得して声をあげた。
「結ちゃん。世の中には心霊現象で困っている人がまだまだいる。結ちゃんの才能はそういう人たちのために役に立てるはずよ」
結羽は何かを悟ったのか、その表情には満面の笑みが溢れていた。
「橘先生! 私、自分が何をすべきかがはっきりと分かりました!」
橘は、結羽の溢れんばかりの笑顔を見つめながら満足そうに頷いた。
「私、今すぐにでも、私の霊能力を使った人助けをしていきます!」
「結ちゃん、ちょっと待って」
橘は、やる気になり始めた結羽を制した。
「結ちゃんが心霊現象を解決するには、多大な時間や労力が必要になると思うの。だからね、例え人助けでも、ちゃんと報酬を得たほうが良いと思うわよ」
「報酬ですか?」
「そう。そうしないと、結ちゃんの時間や労力が浪費されるだけで終わることにもなりかねないわ」
「なるほど······」
「それにね、人が何かを頼むときに出費することで“依頼”に重みが増すことになるの」
「重み、ですか······」
結羽は、いまいち意味が理解できずに考え込んだ。
「何て言えば良いのか説明が難しいんだけど······例えば、無料の品と高額な品があったらどちらに価値があると思う?」
「やっぱり、高額な品の方が価値があるって思うかな」
「それと同じように、無料の依頼と有料の依頼では、お金が必要な依頼の方がしっかりやってくれそう、だと思うでしょ」
「確かに、タダで仕事をお願いしても真面目にやってくれるか、という不安はありますね」
「だからね、言い方は悪いかもしれないけれど、例え人助けといっても、ビジネスとしてやっていくべきだと思うの」
「ビジネス!」
今までビジネスには全く興味が無かった結羽は、驚いて声をあげた。
「そうよ。そうすることで、心霊現象に困っている人たちは結ちゃんに対して『ぜひ解決してほしい』という気持ちで依頼することができるの」
「そっかあ、ビジネスかあ······」
突然、ビジネスという言葉に直面した結羽は、話が大きくなってきた、と思いながら指先で頭をかいた。
「どう? 結ちゃんがそこまでする覚悟があるなら、私も応援するわよ!」
そんな橘の言葉を耳にした結羽は、ホイップの飼い主だった珠代お婆さんの言葉を思い出した。
『結羽さんが霊と会話できる能力は、きっと神様からの贈り物よ』
神様からの贈り物かあ。私の生活費を稼ぐくらいなら、神様からの贈り物を使っても、神様から怒られないよね······。
結羽は、決意した!
「橘先生、私、やります!」
結羽の決意が本物だと彼女の言葉と表情から読み取った橘は、喜びながら結羽の両手を掴んだ。
実は、橘が結羽にビジネスとして霊能力を使っていくことを提案したことには大きな理由があった。
孤児院で育って自立したばかりの結羽が、橘にとっても娘同然の結羽が、意義の感じる仕事をしながら人間として大きく成長していくことを心から願っていたからだ。
橘は、新しい道を見つけて目を輝かせている結羽に優しい眼差しを向けながら、何があってもこの子を守ろう、と静かに誓うのだった。




