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慰霊師  作者: 皇南輝
21/47

1- 21 天国への導き

「結羽姉ちゃん、泣いてるの?」


 四郎は、結羽の両目から涙がこぼれ落ちているのを不思議そうに見つめた。結羽は両目の涙を手の甲で拭った。


「私だって、寂しいんだから。寂しいんだから! 四郎君みたいに両親の顔さえ知らないんだから······」


 結羽は両手で顔を覆いながら声を出して泣き出してしまった。四郎は、結羽が泣く姿を初めて目にしたこともあり、どうして良いのか分からず黙り込んだ。


「結羽姉ちゃんも寂しいんだね······」


 四郎は、うつむきながらぼそりと呟いた。


「分かったよ、結羽姉ちゃん。寂しいのは僕だけじゃないんだね。そっか、そうなんだね。みんな寂しさを抱えてるんだね」


 突然、四郎が大人びた口調で話し始めたので、結羽はその変化に気づいて彼の顔を見つめた。


 四郎は、微笑んでいた。


「結羽姉ちゃん、僕、分かったよ。僕は今まで、お父さんとお母さんがいなくて寂しかったんだ。でも、結羽姉ちゃんがお母さんみたいに優しかったから、その温もりから離れたくなかったんだ」


 結羽は、初めて四郎の本心に触れることができた気がして、嬉しさで心がいっぱいになった。

 四郎は、笑みを浮かべたまま言葉を続けた。


「でもね、僕が求める温もりは、結羽姉ちゃんが言う天国にあるんだ。そこにはお父さんやお母さんがいる。天国へ行けば、僕はもう寂しさを抱えながらこの世界を彷徨う必要がなくなるんだ!」


 四郎の口調が明るく力強くなったとき、突然、四郎の全身が輝き始めた。

 結羽は、あまりの眩しさに目を閉じた。再び、目を開いた結羽は驚きのあまりベンチから転げ落ちてしまった。


 結羽の目の前には、ひとりの青年が立っていた。グレーのスーツに身を包んだその青年は結羽よりもはるかに背が高く、両肩が広い。顔つきは大人びて凛々しく、それでいて四郎の面影を残している。


「し、四郎君なの?」


 結羽は、ゆっくり立ち上がりながら四郎の顔を見あげた。


「うん。四郎だよ。何だろう、自分でもよく分からないけど、本当の自分の気持ちに気づいたら背が高くなっちゃったよ」


 四郎の声質も子供のそれとは違っていた。

 突然、大人へと変貌した四郎を呆然と見つめていた結羽は、最近見た心霊系動画の内容を思い出した。


『霊は自分の姿を変えられる、変わることがある』


 結羽は大人になった四郎を見ながら、心霊系動画に出ていた霊能者の言葉は本当だったんだ、と納得した。


「結羽姉ちゃん、僕、天国へ行けそうな気がしてきたよ」


 四郎は、驚いて目を丸くしたままの結羽を見下ろしながら言った。


「う、うん······」


 そう答えた結羽だったけれど、心臓の鼓動が速くなっていることを彼女自身まだ気づいていなかった。


 四郎君、イケメンじゃん······。


 結羽が顔を赤らめながら四郎の顔を見つめていると、四郎は結羽の頬に優しく手を触れた。


「じゃあね、結羽姉ちゃん。今まで、ありがとう」


 四郎は満面の笑みを浮かべたまま、夜空に向かって上昇し、やがて夜の闇に溶けるように消えていった。


 外灯が照らす中庭は、結羽ひとりだけになった。結羽の心臓の鼓動が落ち着いた頃、結羽は我に返った。


 人の霊が成仏するときって、あんなふうなんだ!


 結羽は新しい発見を伴う体験ができたので、嬉しくなって踊りだしたい気持ちになった。


「私、できた! 初めて、初めて人の霊を天国に導くことができた!」


 外灯が照らす白い光の中、結羽は星空を見上げながら両手を広げ、嬉しさのあまりいつまでもクルクルと回り続けたのだった。


 そんな結羽を、院長の橘はカーテンの隙間から微笑みながら見つめていた。





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