1-2 公園でさまようもの
アルバイトを終えた結羽は、真っ直ぐ帰宅するつもりはなかった。
住んでいるアパートまでは徒歩15分の距離。結羽はアパートには向かわないで、アパートのある場所とは真逆の方向へ歩いていた。
ひっきりなしに車がすれ違う賑やかな大通りに沿ってしばらく歩くと、サッカー場ほどの広さがある公園がある。樹木が生い茂る公園で、人工の小川が流れている。園内には散歩コースが整備されており、夕方の散歩を楽しむ人たちの姿が散見できる。生い茂る樹木からはスズメやハト、カラスなど都会に暮らす鳥たちが各々の巣へ戻る準備をしているのか忙しく動き回っている。
結羽は陽が陰り始めた公園に入ると、あてもなく歩いた。まるで誰かを探すかのように。かと思えば、ベンチの下や樹木の下など、落し物でも探すかのように動き回っている。
やがて、芝生に足を踏み入れたそのときだった。
「あ!」
突然、結羽は小さな声をあげて立ち止まった。そして、すぐに素早くしゃがみ込む。結羽が履いている紺色のミニスカートの裾がふわりと舞った。
「どうしたの?」
結羽は芝生を見つめながら微笑み、優しく声をかけた。
「そっか。急にひとりぼっちになっちゃって、さまよっているんだね」
結羽は誰もいない芝生に向かって優しい口調で話しかけている。近くを散歩している初老の男性が、芝生に声をかけている結羽を不思議そうに見つめながら去っていく。しかし、結羽はそんな他人からの視線を気にしていない。
「怖がらなくていいよ。私が、帰るべき場所へ案内してあげるね」
結羽は両手を芝生に向かって伸ばすと、両手で何かをすくい上げた。そして、そのまま両手で何かを包み込んだ。
結羽は、目を閉じた。
「スズメちゃん、このまま仲間たちがいる天国へお帰りなさい」
結羽は目を閉じながら、自分の両手に向かって優しく声をかけた。その直後、結羽が目を開けながら、同時に、両方の手のひらを開いた。すると、結羽の手のひらから、透き通った姿のスズメがうっすらと光りながら上昇していく。透き通ったスズメは結羽の頭上まで上昇すると、霧が晴れるように消え去っていった。
結羽はゆっくりと立ち上がると、夕焼け空を見上げながら優しく微笑んだ。
「スズメちゃんの霊、天国に帰ることができたみたい」
結羽は満足そうにつぶやくと、再び園内を歩き始めた。
その後、園内を歩き回る結羽は何かを見つけては手のひらに乗せ、目を閉じ、夕焼け空を微笑みながら見上げる、という一連の動作を何度か繰り返したのだった。
「よし、今日は、これくらいにしておこう」
今日はアルバイト先の店長から叱られて気分が落ち込んでいた結羽だったけれど、今の彼女の心は安らいでいた。なぜなら、スズメやハトなどの小さな霊たちを慰め、天国へ送ることができたからだった。




