1- 17 神様からの贈り物
お婆さんの家の外観は廃れかけている印象だが、室内は外観の印象を吹き飛ばすほど近代的で綺麗だった。
お婆さんにリビングルームへ案内された結羽は、勧められるままに椅子に座った。結羽は椅子に座って室内を見回した。
室内の壁紙は真っ白で汚れひとつない。至る所にドライフラワーが飾られており、絵画が掲げられていると思うと、それはやっぱり花の絵だったりする。
「お婆さん、花が好きなんですね」
結羽は室内を眺めながら嬉しそうに言った。
「そうよ。結羽さんも好きなの?」
「はい。私も花が大好きです」
そのとき、結羽は戸棚の上に写真立てがあることに気づいた。写真立てをよく見ると、小学生くらいの女の子が笑っている。
「お婆さん。あの写真立ての女の子はお孫さんですか?」
「そうよ。孫の優希菜よ」
結羽は、お婆さんの孫の写真を見た瞬間、脳裏に閃くものを感じて笑みを浮かべた。
「ねえ、お婆さん。ホイップの名前をつけたのは優希菜ちゃんでしょ?」
「そうよ。優希菜が名付けたの。よく分かったわね」
「だって、名前がホイップだから。お婆さんなら、もっと和風の名前か花の名前をつけるだろな、て思ったの」
結羽の明るい声に反応するようにお婆さんが笑った。
「その通りね。結羽さんは、霊と話せるだけじゃなく勘も鋭いのね」
お婆さんはテーブルに白いティーカップを置きながら答えた。レモンティーの香りが結羽の鼻をくすぐる。
「さあ、結羽さん。お茶でも飲んでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
結羽はレモンが香るティーカップを口に近づけ、ひとくち飲んだ。口の中にレモンの香りが広がって鼻腔へと心地よく突き抜けていく。しかし、その香りは結羽の心の中にある漠然とした不安を消し去ることはできなかった。
結羽はティーカップを白いソーサーの上にゆっくり置くと、正面に座っているお婆さんに顔を向けた。
「お婆さん。もし、私が余計なことをしていたら、ごめんなさい」
「余計なこと?」
「はい。ホイップの死骸をお婆さんに見せてしまって本当に良かったのかな、て思ったんです」
「ええ、良かったわよ。結羽さんには感謝してるわ」
お婆さんは、にこやかな表情で答えた。だが、結羽の顔に笑みは浮かばない。
「でも、悲しかったでしょ? お婆さん、泣いてたから」
「そりゃ悲しいよ。可愛がっていた猫の死骸を見るのは辛いもの。でも、それとこれとは別の話。ホイップを家の庭に埋葬できたのは、結羽さんのおかげなのよ」
「私、これくらいのことしかできないから······」
「これくらいのこと、じゃないわ。霊と会話できるなんて誰もができることじゃないのよ」
「誰もができることじゃないけど、それができることで周りに気味悪がられることがあるんです」
「そんな人たちは気にしなくていいの。結羽さん、あなたには、あなたにしかできないことがあるのよ」
「私にしかできないこと?」
「そう。今日、私は、あなたにしかできないことのおかげで救われたの」
「私がお婆さんを?」
「そうよ。霊と会話できる結羽さんのおかげで、大切な猫の死を知ることができたし、私のお爺ちゃんの存在を感じさせてくれた。それだけで、どれだけ私の不安が解消されたか、どれだけ私が心強く感じたか。本当に結羽さんには感謝してるのよ」
「そ、そんなあ······」
感謝された経験が無きに等しい結羽にとって、お婆さんからの熱意がこもった感謝は照れすぎるほどだった。
「結羽さんが霊と会話できる能力は、きっと神様からの贈り物よ」
「神様からの贈り物?」
「そう。神様から贈られたその能力で、たくさんの人の役に立てるはずよ」
「私の霊感が役に立つ······」
結羽はテーブルの上に視線を落とすと、霊感を使って他人のために何ができるのかを考え始めた。お婆さんは、ティーカップを口に運びながら、考え込んでいる結羽を目を細めながら見つめた。
「私の霊感······」
結羽は、同じ言葉を独り言のように何度も繰り返した。
「結羽さん、何も慌てて答えを見つける必要はないわ。人生長いんだから、ゆっくりと答えを見つければ良いのよ」
お婆さんは優しい口調で結羽を諭すように言った。
「そうですね。分かりました」
結羽は、再びティーカップを口に運んだ。
「お婆さん、このレモンティー美味しいですね!」
結羽の表情に笑みが戻ると、お婆さんは、まるで自分の孫娘を見るように優しく結羽を見つめるのだった。




