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慰霊師  作者: 皇南輝
14/47

1- 14 霊が見える、伝える

 突然、立ち止まって可笑しそうに笑い始めたお婆さん。結羽は、何ごとだろう、とお婆さんの顔を呆然と見つめた。


「結羽さん。人間長く生きてるとね、いろんな人に出会うものなの」


 結羽は、なぜお婆さんが人生の話題を切り出したのか理解できないまま呆然としている。


「その中にはね、普通の人が見えないものが見える人って少なからずいるものなの」


 そのお婆さんの言葉を耳にした結羽は、お婆さんが何を言おうとしているのかをすぐに察した。


「そうですね」


 結羽は相槌を打ったものの、緊張し始めた。


 私には霊が見えることがお婆さんにバレたのかな······。


 結羽は、霊が見える、というだけで孤児院で孤立していたことがある幼い頃の体験を思い出した。


 結羽は緊張した面持ちでお婆さんの顔を見つめた。そんな結羽の緊張をお婆さんは見抜いていた。


「結羽さん、見えてるんでしょ」


 お婆さんのにこやかな表情と違い、結羽のそれは対照的だった。結羽の表情は強ばっていた。結羽は顔を強ばらせたまま黙っている。


 結羽は思った。


 もしここで「霊が見える」と素直に答えてしまったら、お婆さんに不信感を抱かれるかもしれない。

 しかし、そんな動揺さえ、人生経験豊富なお婆さんは見抜いていた。


「大丈夫よ。私は、そういうことには理解があるから」


 お婆さんのその言葉によって、結羽の緊張は解けた。


「お婆さんも、幽霊が見えるんですか?」


 結羽は思いついたことをお婆さんに尋ねたが、すぐに後悔した。


 もしお婆さんにも霊が見えるんなら、ホイップが喚いたりしないよね······。


 結羽は、お婆さんの足にまとわりついているホイップを見つめた。


「私には見えないよ。だけどね、幼なじみの親友が幽霊を見られる子だったの。だから、私はそんな人たちを理解できるのよ」


「そうなんですか!」


 結羽の表情が明るくなった。その直後、結羽はしゃがみこむと、お婆さんの顔を見上げた。


「実は、お婆さんの足元にホイップがいるんです」


 結羽は嬉しそうにお婆さんに伝えた。


「そうなのかい。だからさっきから、足元に何かいるような気配があったんだねえ」


「ホイップが、お婆さんの足元にまとわりついてるんです。それでね、お婆さんが僕に気づいてくれない、て喚いてるんですよ」


 結羽は、お婆さんの足元にいるホイップを優しげな笑みを浮かべて見つめながら言った。お婆さんは、それを聞くと、すぐにしゃがみこんだ。


「ホイップ、おいで」


 お婆さんがゆっくりと地面に両手を差し出すと、ホイップは「やったー!」と喜びの声をあげながらお婆さんの両手に飛び乗った。


「お婆さん、ホイップが両手に乗って喜んでますよ」


「そうなのかい」


 お婆さんは、両手を胸の前まで近づけると何かを抱きしめるような仕草をして目を閉じた。そのとき、ホイップはお婆さんに抱きしめられていた。


 お婆さんにはホイップの霊が見えない。だけど、ホイップにはお婆さんがしっかり見えている。ホイップは大好きなお婆さんの顔に頭をこすりつけている。


「ホイップがね、お婆さんの顔に頭をスリスリして愛情表現をしてますよ」


 結羽は、嬉しそうにお婆さんに伝えた。すると、お婆さんの目から涙がひとつ、煌めいて落ちた。


 お婆さんとホイップが死後の再会を喜びあっているとき、結羽の傍にお爺さんの霊が近づいてきた。


 お爺さんの霊は、お婆さんの祖父にあたる。


 結羽はお爺さんの霊に伝えたいことがあった。だけど、お婆さんの前では話せない内容なので口に出せない。


 お爺さんの霊が近くにいることを、お婆さんに伝えてもいいのかな······。


 結羽は、お爺さんの霊とお婆さんを交互に見ながら首を傾げて見せた。結羽の意図に気づいたお爺さんの霊は、うんうん、と二度頷いた。


「ねえ、お婆さん」


 お婆さんは結羽の顔を見上げた。両目が赤くなり、涙で濡れている。


「実は、もうひとり、お婆さんに関わる方がいるの」


「ええ、分かってる。私のお爺ちゃんでしょ」


 お婆さんからの予想外の言葉に結羽は驚いた。


「知ってたんですか?」


「お爺ちゃんの霊が見えるわけじゃないけど、よく夢に出てくるから」


「そうなんだ。そうです、お爺さんの霊もお婆さんを見守ってるんです」


 結羽は、他人事なのに、自分のことのように喜びを隠さずに伝えた。


「ホイップといい、お爺ちゃんといい、守られている私は幸せ者ね」


 結羽は、お婆さんがハンカチで両目を拭っているのを見つめたあと、お爺さんの霊に顔を向けた。お爺さんの霊は満面の笑みで何度も頷いていた。





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