1- 13 お爺さんとお婆さんの関係
結羽は、ホイップの飼い主であるお婆さんを連れて、ホイップの死骸が横たわる場所へ向かった。
ホイップの霊は、お婆さんの足元にまとわりつくように歩き、お爺さんの霊は結羽のすぐ右隣を歩いている。
結羽はホイップをさりげなく一瞥した。
ホイップは、飼い主のお婆さんのことが大好きなんだな。
結羽は微笑ましく思った。だけど、ホイップはもう二度とお婆さんの手のぬくもりを感じることはないのだ。
それはお婆さんに対しても言える。
ホイップとお婆さんは、もう二度とお互いの温もりを感じられない。そうなれば、残された選択は、悲しみを伴いながらも素敵な思い出に変えていくことしかない。
「お嬢さん」
結羽の隣を歩いているお爺さんの霊が彼女の名前を呼んだ。結羽は、景色を見るふりをしてお爺さんの霊に顔を向けた。
「珠代ちゃんは猫の死骸を家の庭に埋めて供養するはずじゃ。あの子は、飼っている動物が亡くなる度に庭に埋めていたからの。幼い頃からずっとそうじゃった」
結羽は、お爺さんの霊の言葉に思うところがあったので、ちらりと振り返ってお婆さんの顔を見た。
そういえば、お爺さんの霊と珠代お婆さんの顔って何だか似てる気がする······。
結羽は、もう一度、お爺さんの霊の顔を見てみた。
やっぱり、似てる!
そう思った結羽の微妙な表情の変化を感じ取ったお爺さんの霊が笑みを浮かべた。
「気づいたかの? わしと珠代ちゃんは家族なんじゃ」
結羽は微かに目を見開きながら、お爺さんの霊を見つめた。
「珠代ちゃんはの、わしの孫なんじゃ」
お爺さんの霊が打ち明けた言葉に、結羽は納得したように何度も頷いた。
お爺さんの霊は、孫である珠代お婆さんの守護霊ということなのかな······。
結羽は、お婆さんを先導しながら歩いていたが、半歩下がるようにしてお婆さんの隣を歩き始めた。お婆さんは、そんな結羽の動きにすぐ気がついた。
「お婆さん、猫ちゃんが死んだら寂しくなりませんか?」
結羽からの問いかけに、お婆さんは寂しげに微笑んだ。
「それは寂しいわ。ホイップは子猫の頃から家で飼っていたからね。でも······」
「でも?」
「不思議と、何だかホイップが私のすぐ傍にいるような気がするの」
結羽は、お婆さんの足元に視線を向けた。お婆さんの足元ではホイップがお婆さんの足にまとわりつきながら歩いている。それを見た結羽は笑みを浮かべた。
「必ず猫ちゃんの霊がお婆さんを守ってくれていますよ」
「もし本当にそうであれば嬉しいことね。だけどね、私を守るより、早く成仏して極楽へ行ってほしいわね。その方が、ずっとあの子の幸せになるから」
お婆さんはそう言うと、春の澄んだ青空を見上げた。結羽も、お婆さんの言葉に同意するかのように青空を見上げた。
「ゆうは、ゆうは」
結羽の視界の下からホイップの声が聞こえた。すぐにお婆さんの足元に視線を落とした。すると、ホイップがお婆さんの歩調に合わせて歩きながら結羽の顔を見あげている。
結羽はホイップの目を見ながら無言のまま頷いた。
「ぼくのかいぬし、ぼくにきづいてくれない」
悲しげなホイップの声が耳に届いた。結羽は、自分が霊が見えて話せることをお婆さんに悟られないように、ホイップを一瞥してから「わかってるよ」とでも言うように無言で二度頷いた。
お婆さんは結羽の視線の先に合わせて自分の足元に視線を落とした。しかし、何も問題がないと分かると結羽を不思議そうに見つめた。
「何かありましたか?」
お婆さんはにこやかな表情で結羽に尋ねた。
「何でもないです」
結羽は作り笑いしながら答えた。
「ねえねえ、ゆうは。どうして、ゆうはもだまっているの? ねえねえ!」
お婆さんの足元でホイップが騒ぎ始めた。
もう、ホイップったら。隣にお婆さんがいるんだから今は話せないのに!
結羽は騒いでいるホイップを無視することにした。そのときだった。お婆さんが足を止めると、結羽を見つめながら肩を揺らして可笑しそうに笑い始めたのだった。




