2-4.目を引く存在
「高梨、お前、塩野鈴と登校してたってマジ!?」
「おう、したけど」
「まじかよ! え、どんな感じ? やっぱ塩なの?」
「いや、さすがに人間だろ」
「対応がだよ!」
ツッコまれて「ああ」と俺は鈴の態度を思い出す。塩対応と言えば、塩対応か。声色が視える俺にとっては、ツンデレと形容したほうが的を射ている気がするが。
「まあ、世間一般でいうなら塩か?」
「なんで達観してんだよ! くぅ~、でも、塩なとこもいいよな!」
「そうか? つか、知り合い?」
「うちの学校一有名な地下アイドルだぞ!? お前、知らねえで一緒にいたのかよ!?」
「あいつ、地下アイドルだったのか」
「まじかよ……お前……くそ~! なんでこんなやつが!」
なぜか涙混じりに教室を出ていった友達を追う気にもなれず、俺は席につく。
スマホで『地下アイドル 塩野鈴』と検索すると、グループのSNSがヒットした。
FAKESは鈴を含めた五人組のグループらしい。鈴の地雷系が目立たない程度には、みな個性的な見た目をしている。俺はさらにSNSの画像をさかのぼっていく。メンバーのソロ写真やライブ中の写真がほとんどで、五人が仲良く映っている写真はほとんどない。FAKESというグループ名は、メンバーそれぞれの頭文字からつけられたらしいが、メンバーの和気あいあいとした雰囲気を売りにしているわけではなさそうだ。
鈴はその中でも『塩対応アイドル』『クールな地雷ちゃん』『かわいさとかっこよさを兼ねそろえた美少女』とコアなファンから熱狂的支持を受けているらしかった。
「ほぉん……」
見た目と性格のギャップがいいのだろうか。もしくは、俺同様にあれをツンデレと受け止められる寛容な人間が多いのか。
SNSからネットの記事に切り替える。
ドン! と現れたのは真っ赤な『炎上』の文字。俺は思わず画面をスワイプする指を止めた。
「お騒がせアイドル、またも炎上……」
どうやら、一度ではなく何度か経験しているらしい。次々と記事が流れてくる。SNSの配信ライブをやらせようものなら、かなりのアンチも湧くようだ。
「まあ、あの態度じゃな」
言いつつ、指は他の記事を探す。鈴を否定するのは簡単かもしれないが、多分、そうじゃないって、俺の心がなぜか世間の声に対抗していた。
『地下アイドルを語るスレ』と書かれた掲示板をタップする。鈴の態度を咎める声も見られるが、意外にも、実は人一倍周りを見ているだとか、メンバーを立てているだとか、ほめている声も見受けられ、俺は無意識のうちに安堵した。
賛否両論はあるものの、それだけ目を引く存在なのは間違いないようだ。
俺はそれらをひとしきり眺めて、FAKESの曲をいくつかダウンロードする。
再生と同時、イヤフォンに流れこんできたメロディーは、意外にも爽やかで明るい王道のアイドルらしいものだった。
やがて、鈴のパートが流れる。明るい歌詞なのに、俺にはなぜか青色が視える。
鈴の声に宿った切なさが、妙に胸をざわめかせた。