念仏
「そんで、これからどうすんだ?」
「言っただろ?出て行くよ。いつまでも世話になっていたらケツ穴が壊れちまう」
「そうか。旅に出るなら止めないが、君は弱いしまたぞろすぐにモンスターに囲まれて強姦されてしまうだろうな。偶然ゴブリンだったから良かったもののオーガやガーゴイルにハメられたらケツが裂けて死ぬよ?妊娠させられたら卵が腹を突き破ってどの道死ぬ。王都まで送ってやるから祝福を受けなさい。祝福を受けてジョブを授かれば何らかの才能が開花するかも知れない。あとこの世界でソロプレイは自殺行為だからどこかのギルドに入ってパーティを組みなさい。モンスターと一人で対峙するバカは居ない。逆に退治されちゃうよ。だったりしてな!?ははははは!」
「族も先輩に無理矢理入れられただけで元来俺は警察やヤクザみたいな群れて喧嘩する奴らは好きじゃない。喧嘩はやるかやられるかじゃなく、やるかやらねぇかだ。タイマン張るって決めたら命賭ければいい。そんだけの事だよ。くだらねぇ人生だ。俺は俺の死を死にたい」
「ははははは。屁理屈で死にたいだなんて平和ボケも大概にしたまえ。君は若者特有の視野狭窄に陥っている。思考停止はやめてもっと沢山の言葉を知りなさい。肥大化した自我を捨てて世界と一つになりなさい。俺は君だし、君は俺なんだよ。モンスターに個人主義は通用しない。彼らは世界の一部なんだ。何匹死のうが意に介さない。その役柄を演じ全うし死んでゆくのさ。人間様だけが言葉をこねくり回しちゃ駄々をこねてる。自然を克服する必要性など皆無だ。俺達は世界に助けられそして世界に殺される。俺達が今ここで死んでも世界は完全なままで一点の曇りもない。君がもし自分の思弁的な妄想を信じられるなら、俺の人生はくだらなくなんかないって言ってみろよ。言え。結局逃げてるだけじゃねぇか」
唐突に始まったジジイの意味不明な説教に俺は閉口した。
「とにかく王都までは俺が送ってやる。俺は俺が愛した男を死なせはしない。そこから先は自分の頭でよく考えろ。誰かの言葉ではない君の文脈で、不可避の現実に対する答えを出せ」