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ルクレチア

 スカイドラゴンとの死闘の翌日。記憶が飛びまくって訳がわからないのに疲労感だけは凄まじく起き上がって仕事に行かなければならないと思うのだが胸がグゥーっと圧迫されて立ち上がれない。俺は今薬草畑の寮で暮らしているので扉を開いて階段を降りればそこが事務所なのだが、どうにも動けない。部屋に起こしに来た社長に今日は休みますと伝えると理由を書けと紙を渡されたので無気力と書いて提出した。欠勤が決まるとどこからか不思議な力が湧いてきて立ち所に胸の痛みは消え去り立ち上がる事ができた。俺は皆んなが畑に行っている間にこっそりと抜け出し王都をぶらついた。そこで俺はボルジア家のルクレチアと遭遇した。

「あらアヅチさん。よく生きていたわね。腐敗もなくなっているみたいだし、一体どんな魔法を使ったの?」

「ルクレチアか。その節はどーも。悪いが俺にもよくわかんねぇ。毒針は全く効果無かったぜ。なんかそれだけは憶えてる」

「アヅチさんが竜の巣に特攻してからしばらく空からスカイドラゴンの精液が降り注いで地上は未曾有の大災害よ。竜化した大地や植物や家屋やありとあらゆる生物が捕食を始めて死者は数百万人に上るそうよ。それも今日の正午には終息してこちらとしてもわからない事だらけね」

「俺が悪いの?」

「幸い原因が貴方だって事を知っているのはボルジア家の数人だけだし、貴方は興味深いサンプルだから私達は死んでも隠し通すわ」

「そりゃどーも。またなんか思い出したら教えるよ」

「毒の調合はもういいの?それなら貴方を実験台にする契約もここで破棄するけど?」

「ああ。実験台は二度と御免だがテメーらには世話になったし何か手伝える事があれば言ってくれ」

「そ?じゃあ私のお友達になって頂戴。私は貴方みたいなイカレポンチが大好きなの。うふふふふ」

「そんなのお安い御用だぜ……友達料金とか無いよね?」

「そんなのあるわけないじゃない。金銭なんて何の価値も無いわ。面白くないし」

 ルクレチアと友達になった。ボルジア家の人間と付き合うのは自殺志願者だけだと言うのが王都での常識だ。特にルクレチアは歩く化学兵器の異名を持つ戦争の第一人者でこの国が領土を広げられたのは彼女の功績が大きい。戦場を実験場にする悪名高き一族だ。自殺志願者達は何も知らずにボルジア家に毒を貰いに来る。そして死ぬよりツラい目に遭わされるのだ。俺もその中の一人だったが、どういう訳か俺は死ななかった。腐敗していた肉体も今では元通りになっている。女神の加護があるなどとは考えにくいが、俺の生命の成り立ちについては謎が深まるばかりだった。


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