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第4話

 余暉からの許可を貰い、平服を着ると、明林を連れて麗花は夜になると墓荒らしの現場へと赴く。自分の腰に力強く抱きついている相手が気になって、つい麗花は後ろを見てしまう。

「あなたまでついてこなくて良かったのよ?」

 兄や姉の僵尸たちから散々、恐い目に遭わされてきた余暉は、墓場や怖いものが大の苦手だ。それでも、自分が行かないと外出の許可が出来ないと彼までついてきた。

「ど、どうするんだ」

「この人達に話を聞こうと思って」

 墓荒らしにあった現場近くの墓を明林に掘らせると、麗花は懐から札を取り出して、屍体に貼りつける。余暉には聞こえないように唇で術を組んで、手を合わせると屍体が起き上がったことに、余暉の力が弱まったことに麗花が後ろを見ると、彼は意識を失っている。仕方なしにその場に彼を寝かせると、口笛で麗花は屍体と語りあう。

『なんだ、小娘。最近、騒がしいのはお前か?』

 麗花が小娘と言われたことに腹ただしく思ったのか、制止する間も無く、明林が屍体の頬を殴りつける。彼の右頬が呆気なく崩れたことで、余暉が失神していてよかったと麗花は思う。

『……この体になってよかったと思ったのは痛みを感じないことだ。お前ら、喧嘩を売りに来たのか‼︎』

「ご、ごめんなさい。明林は主人公想いなの。騒がしいっていうのは?」

『……あーあ。痛かったな』

 明林のせいとはいえ、話す気がなくなってしまった屍体に麗花は根気よく話しかけるが、彼はすっかり拗ねてしまった。仕方がなしに、最後の手段と思っていた物を麗花は懐から取り出す。

「これで話す気はあるかしら?」

 生前に彼が好きだったという月餅を投げると、彼は月餅に頬擦りする。

『月餅じゃねぇか。俺が知ってるのは、男が墓を掘って女の屍体にばかり、術をかけたことだけだ』

「……男が」

『あぁ、それでうまくあんたらの世界でいう僵尸か? ってのに造ることが出来なくて、他の墓にまで当たりやがっていい迷惑だったよ』

「顔は見たのかしら?」

『俺はもう目が崩れているだろう? その分、耳は良くなったらしい。そっちの気絶しているやつと同じくらいの若い男としか分からない』

「そう、ありがとう」

 麗花が手を叩くと、彼はまた動かない屍体へと戻る。何人かに聞いても『若い男』と『偉そう』ということしか分からず、麗花は黎家からの情報を待つしかないかと考える。

「余暉、余暉」

 彼の真白い頬を軽く叩いても、彼が目を覚ます気配はない。彼を仕方がなく麗花は背に乗せたが、意外に鍛えているのか、見た目とは違って重たい。

 自分だとこのまま彼を引きずりながらも歩くしかないと諦めて、明林に余暉を運ぶようにお願いする。

「いつの間にか、育っていたのね」

 明林に促されて墓場から後宮に戻ろうとする麗花の足を何かが掠める。麗花が腰を屈めて拾えば、薄汚れた結び飾りだ。たどたどしさが見える結び方から、幼い子が作ったのか、不器用な人が作ったことが窺える。結び方をどこかでみた気がして唸る麗花の服を明林が引っ張る。結び紐を持ったまま、麗花は墓場を後にした。




「これは、これは貴妃さま」

 気分転換も兼ねて、麗花が庭園に出てみれば、賢妃のところの宦官が頭を下げる。

「あなたは確か、飛燕だったかしら?」

「覚えてくださって光栄です」

 飛燕が一向に頭を上げないことにじれったくなり麗花は声をかける。

「頭を上げて」

 麗花の言葉に飛燕は頭を上げる。星彩とまではいかないものの、彼の顔だちは人形のように整っている。黒曜石のような瞳に感情を映さないことから、麗花はどことなく寒気を感じてしまった。

「賢妃様のお側にいなくていいのかしら?」

 余暉は賢妃の不義密通のことは知らないようだったが、彼女の体調が芳しくないことに一度、実家に戻した方がいいのかと考えていることが分かった。

 現在、後宮には麗花も含めた四妃と侍女、宮女しかいない。家臣たちからも妃を増やすことを毎日のように言われている為、彼女を戻せばこれを幸いとして、これ以上の妃を増やされてしまうことに、中々、決断が出来ないようだ。

「お心が少しでも癒さればと花を摘みに」

 花を摘みに来たと口にしたのに、彼の手には花がない。しかし、その手が爪まで土が入っていることに、麗花は目を細める。

「賢妃様はお花がお好きなの?」

「ええ。小さい頃からお好きでした」

 どうして知っているのだろうと彼の言葉に麗花が首を傾げると、飛燕は淡々と口を開く。

「私と賢妃様は幼馴染なんです」

 彼は口数が多い方ではないようで、飛燕との会話はなかなか、弾まない。行ってよい、と手を振ると、頭を丁寧に下げて、彼は去っていく。

 ちりん、と以前も聞いた鈴の音に麗花は目を見開く。

「明林。彼も道士だと思う?」

 自分を陰から見守っていてくれた明林に麗花は確認をする。明林は麗花の言葉に首を振った。

「そうよね。だったら、なんで、僵尸用の鈴なんて持っているのかしら」

 鈴の音は通常の人にだと聞こえないが、彼らを操る道士と僵尸だけにその音が聞こえる。

 そのことでなにかを思い出したのか、明林は麗花の手を握ると、庭園の奥にある物置部屋へと連れていく。そこには姉と逃亡した筈の縛られている僵尸の姿があった。

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