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006 瞬間移動する魔法少女。

城内にある訓練場では、普段から積極的に訓練をする生徒が数名ほどいる。

しかしその日は、皆どこか不安そうな表情をしていた。


「昨日のアレ、魔法少女ルージュが犯人ってマジなん?」

「桜田のやつもいなくなったらしいよ」


その前後は聞かされず、ただ結果だけを聞かされても判断に困っていた。

同時に不安にもなってくる。


このまま大人しく訓練を続けていてもいいのだろうかと……。



「あともう一つさ、宝物庫が空とか城の人が話してたんだけど……やばくね?」


生徒たちはシンと静まり返る。

さすがにこの状況で大人しく訓練できる者はいなかった。

ただ、【勇者】の職業を得た相川勇人だけは、王女と共に別の場所で訓練している。

はたして彼は今の状況をどう思っているのだろうか。

彼だけじゃない、あまり訓練に参加していない生徒のことも気になる。


「……一度クラス全員を集めて話し合ったほうがいいな」


剣道部主将であり、【剣聖】の職業を賜った竹山健吾たけやまけんごの言葉に異を唱える者はいなかった。



◇   ◇   ◇   ◇



「何で放った本人まで視力を奪われてるのさ」


「久々に使ったからうっかりしてたよ……」


ルージュは小川で顔を洗うと、まだちょっと視界が赤みがかっていると感じた。

我ながら恐るべしルージュフラッシュ。


「ボクは縛られてたんだからさ、もうちょっと考えてほしかったよ」


「うるさいなー、しばらくしたら治るんだから結果オーライじゃん。とりあえず変身解除っと」


解除後は自然と元の服に戻る。

後は髪型を変えて、伊達眼鏡を掛ければ変装完了だ。


「変身解除は見られてもいいんだ?」


「……」


……あれ?

よくよく考えると、変身する時は光が体を覆うから見られても困らない気が……。

それに引き換え、元の姿に戻るときはこれといった演出などない。


「……逆だったかもしれねぇ」


「うん、逆だよ紅葉」


そうだよねぇ、私も変装する時のほうが見られたら困るもん。


「まいっか、それより街までどのぐらいかなー?」


段々と街道というよりはただ道っぽいものがあるだけになってきていた。


くれたん良い性格してるよねー。あ、これ褒めてんだからね」


「たしかに紅葉のこういうところは悪い所であり、良い所でもあるんだけど……はぁ」


苦労してそうだねー、と華蓮はグリ公の頭を撫でる。

それが嫌だったわけではないが、グリ公は翼を大きく広げて飛翔した。


「ボクはちょっと道の先を確認してくるよ」


「いってらー」


「もう知らない人について行っちゃダメだよグリ公」


「ついて行ったわけじゃないよ!」


とりあえず周囲のマッピングは任せて大丈夫だろう。


「そういやさー、くれたんってやっぱ魔王を倒して元の世界に戻るつもりなの?」


「……?」


急に何の話だ? と紅葉は困惑した。


「魔王……あー魔王ね、悪い奴だよね多分」


「悪いかどうかはあーしも知らないけど」


それを言ったら私だって知らないよ。

でも倒さないと元の世界に戻れないのか……。


「……ん? お城にあった魔法陣で召喚されたのに、魔王を倒さないと帰れないって意味不明じゃない?」


「そだね、あーしもくれたんと同じ考えだよ」


そこで紅葉は閃いた。

この場合、召喚した張本人を倒したほうが帰れるのではないのかと。


「つまりあの王様を倒すべきだったのか!」


「うん? 急に方向性変わったね」


でもなんとなく華蓮は紅葉がどういう考えでその答えに至ったのか察していた。


「それ下手すると帰る手段なくなるパターンかもよ?」


「そっかぁ……」


帰れないのは困るな。

あの王様には是非とも長生きしてもらわないと。


「まぁでも元の世界には帰りたい……というよりこの世界にいる理由がないかな」


なにせ巻き込まれただけだし。

あと魔法少女を理解してもらえないし!


「あーしも今年は受験あるから早く帰りたいんだよねー」


華蓮の理由は思いのほか真面目だった。


「クラスメイトはどんな感じだったの?」


「半々って感じ。でも帰りたがる人ほど城の人から露骨に扱い悪くなんだよねー」


なるほど……私に至っては多分放置されてたんだろうな。





「一番近場だと、50キロぐらい先に街があったよ。それ以外だと、王都より反対側になるから元の道を戻ることになるね」


地上に戻って来たグリ公の報告によると、このまま進めばそこそこ大きな街があるらしい。


「時速50キロで走っても1時間かかるのかぁ」


がんばれば100キロいけるか……それでも30分必要となると現実的じゃないな。


くれたんって算数のたかし君みたいだね」


「失敬な、私は実際に走れるし実在してるよ」


ただスタミナには自信がない。

もっと……もっと楽な方法があってもいいはずだ。


「……マラソンとか嫌いなんだよねぇ」


ただひたすらに走るとか拷問だと思うんです。


「たしかに紅葉が魔法少女ルージュになってからというもの、決着が早く着くことが多くなったね」


「それ、なぜかSNSだと評判悪いのが納得いかない」


『緊張感に欠ける』とか、『出会って5秒で決着ワロス』とか心無い言葉が多い。

言葉は凶器だって体にわからせてあげたいよ。


「んー……あーしの手品なら一瞬で行けるかも? ほら、瞬間移動マジックとかあるし」


「……手品ってすげぇ」


魔法少女ってやっぱりハズレの職業なんじゃなかろうか。


感心したり落胆している紅葉を他所に、グリ公は心配になり華蓮に耳打ちした。


「ちょっと待ってよ華蓮、それ大丈夫なの……?」


タネも仕掛けもない、というのは紅葉を納得させるための云わば嘘も方便だったはずだ。

実際には何か仕掛けが必要なはず……。


「んー……まぁなんとかなるっしょ」


「なんとかて……」


前回見たのは、何もないところからバラを出すという簡単な手品だった。

でも今回は違う、タネや仕掛けがあるとしたらどういった手段になるだろうか……。


「はーい二人ともあーしから離れないようにねー」


華蓮は何もないところから真っ黒なカーテンを取り出すと、全員を覆うように被せた。


「これが消えるマジックの消される側の視点かぁ……」


「消す側も同じ視点にいるけどね……本当に大丈夫なのかな」


ワクワクしている紅葉に対し、グリ公は不安を隠せないでいた。


「それじゃあ行くよー。ワン…トゥー…スリー!」


華蓮が勢い良くカーテンを払いのけ、一気に視界が明るくなる。

その先に見えたのは、特に変化のない自然豊かな光景が……


「ほっ、良かった。そりゃタネも仕掛けもないならこうなる――――


「どこ見てんのグリ公」


紅葉の声に振り返ると、そこにはやや高めの壁があった。


「石造りの壁……いや、レンガかな?」


しかし建物の壁にしてはやけに長く続いている。

まるで何かを覆っているかのようだ。


「……いや、うん……そうだね、どう考えても覆っているのは街だね。ホントに瞬間移動したんだ……」


「やっぱ手品ぱねぇ……」


紅葉は素直に感心していた。

この子はダメだ、もう華蓮の手品に何の疑問も抱いてない。


「いやいやおかしいでしょ! 一体どんな仕掛けがあればこうなるのさ!」


「どんなって言われてもなぁ」


返答に困る華蓮の代わりに、紅葉はなぜかしたり顔で答える。


「グリ公はバカだなぁ。これはチートだからタネも仕掛けもないんだよ」


「いや、だってそれはもう手品じゃ……」


「グリっち、あんまり考えすぎるとハゲちゃうよー」


納得いかないグリ公を置いて、二人は街の入口へと歩いて行った。


「……えっ、ボクが間違ってるの?」

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