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059 最強の2人。

――――異世界から帰還し、2年という月日が経った。

当時召喚された者たちは日々の生活を取り戻し、現在は高校2年生である。


「進路ねぇ……」


竹山健吾は、進路希望の紙をどうするべきか悩んでいた。

ここが異世界であったなら、剣の道を進むのも悪くなかったかもしれない。

しかしここは平和な日本である。

はたしてここで剣の道を選んだとして、その先に剣聖だった頃の自分がいるのだろうか。

……まず無理だな。


「皆はどうしてるのか聞きたいけど……」


あの頃の皆はもういない……というと語弊があるな。


怪人が消滅した後、皆何事もなかったかのように無事が確認された。

ただ、怪人に飲まれた者はその前後の記憶を失っている。

当時のクラスメイトたちに至っては、異世界に召喚されたことすら覚えていなかったのだ。

つまり覚えているのは……


「どうした健吾、進路希望白紙じゃないか」


「勇人か……って、お前も白紙に見えるが?」


「まぁ……ね。大学には行くつもりなんだけど……健吾は体育系の大学だと思ったけど違うのか?」


「もちろんそのつもりだよ。ただ、その後のことまで考えるとね……」


普通に就職して、普通に老いていく自分がまるで想像できなかった。


「僕も同じようなものだよ。っと、委員会の仕事があるから僕は行くよ」


健吾と同じように、異世界での記憶を失っていない勇人もやはり同じようなものだった。

良くも悪くも、あの世界での出来事は自分たちの人生に大きく影響しているらしい。


「……誠はどうするんだろうな」


「呼んだ?」


背後からの声に振り返る。

これが異世界だったならもっと早く気付いたんだろうな。


「誠……いや、ちょっと進路のことでな」


それにしても、誠は男子の制服がまったく似合っていない。

女子の制服の方が似合いそう……とはさすがに口にはしないが。


「健吾くん進路決まってないの?」


「決まってないわけじゃないんだが……誠は全部法学部か」


誠の手にある進路希望の紙には、どの大学も法学部と記載されていた。


「うん、司法試験も受けようと思ってるんだ」


「司法試験って……弁護士にでもなるのか?」


ちょっと意外だった。

たしかに高校に上がってからの誠は成績もトップクラスではあるけど……。


「いや、弁護士になるつもりはないよ。ただ、法律に強い探偵を目指そうと思ってね」


「探偵……?」


健吾は、一瞬胸がざわついた。

自分は異世界で得た力と同じものは手に入らないと諦めたのに、誠はさらに上を目指そうとしている。


「まぁ僕の体力で探偵が務まるかはちょっと自信ないけど」


そりゃ勉強だけでも大変だろう。

ただでさえ華奢なのに……。


あぁそうか……お前がそういう選択をするのなら、俺にも考えがある。


「よし、俺の進路も決まった!」


健吾はスラスラと進学先を記入した。


「どれも体育系の大学なんだね。でも健吾くんならもっと有名所でも行けるんじゃない?」


「ん? まぁ通学が楽なところ書いただけだからな。大事なのはその後だし」


「その後……?」


首を傾げる誠に、進路希望の紙を差し出した。


「体力自慢な助手志望がここにいるんだが、採用してくれるかな?」


キョトンとしていた誠だったが、すぐに笑顔に変わる。



数年後、江戸川探偵事務所という名の看板が街中に現れる。

若い二人組の活躍を間近で観察するために、裁縫が得意な事務員もまた入社するのだが、それはまた別のお話……。



◇   ◇   ◇   ◇



とあるブティックにて、一人の店員がスマホを眺めながらため息を漏らした。


「はぁ……コウカクの奴、また仕事辞めたのね」


呆れた顔をしている女性店員は、元魔王軍四天王、女帝のオリビアだった。

この店はジョーテイという名の小さな店舗であり、たった一人の店員であるオリビアが店長を務めている。


「どいつもこいつも何をしてるんだか……ま、私は恵まれてるほうだけど」


この世界に来た四天王の4人は、皆人間同様の肉体に作り変えられていた。

そしてこの世界で生きていくことを、魔王である華蓮から言い渡された。

皆能力そのものは失っていないものの、やはり種族が変わるということは大きな変化である。


バウアーはただのガチムチになってしまったが、力自慢として建築現場と格闘技界で話題になっているようだ。


悪魔であるアスモデウスは、悪魔というアイデンティティを失ったことで一時期落ち込んでいたものの、今は芸人を目指していることのこと。

一体何をどうすればそんな目標になるのやら……。


コウカクはとにかく世界の知識を求めた。

その結果、全てを見下して仕事が長続きしないフリーターと化している。


そんな中、存在としての変化が少なかったオリビアは、小さいながらも自分の店を持つことに成功していた。

最近では異世界風の衣装が人気を集めている。


「ん、速報……?」


スマホの画面に見えたのは、怪人の二文字。

すると、オリビアはカウンター内にある小型のテレビをつけた。


『こちら現地リポーターの田中です。怪人は人質を取っており――――』


オリビアは徐々にテレビの音量を上げていく。

この世界での楽しみといえばほとんどがこれだ。


「今日は良い夢が見れそうね」


………………


…………


……


「ルージュ! 標的は市街地のほうだ!」


グリ公の声に応えるように、赤髪のツインテールが風になびく。


「やめてよー、またテレビ局が来ちゃうじゃない」


うんざりした態度で、ルージュは屋根より高い位置を飛び標的を追う。

そして、標的が飛び込んだ建物の前で静止した。


「うそ……ここに入ったの?」


それは見たことのある学校だった。

ここに来るのも2度目……いや3度目なので知っている。

すでに怪人の存在が認識されたのか、校内からは悲鳴が聞こえた。


「この学校、なんか呪われてんじゃないの?」


「悠長なことを言っている場合じゃないってば!」


グリ公はルージュの肩に乗る。

『何を立ち止まってるんだ、さっさと行け』という視線を感じた。

そっちこそ人の肩で休まないでほしい。


「ま、パパッと行ってドカンと片付ければいいんでしょ」


「その爆発音はちょっと不穏だよ」


ルージュが建物に近づくと、怪人の声が聞こえた。


「ぐはははっ、この建物は怪人ラストエンペラー様がいただいた!」


脇に人質と思われる生徒を抱えている。

最近は人の言葉を喋る怪人が増えた。

さらには、人質を取るなど小賢しいこともやってくるタイプが多い。

おかげで各地の魔法少女たちも苦労しているようだ。


「最近人質取る系多くない?」


「ルージュがノンビリしてるからじゃん」


女子高生は何かと出動に時間がかかるんです。


「あーどうしようかなー。こういう時って、人質無視して攻撃すると上手くいっても炎上するんだよね」


すでに報道のヘリも来ているので、下手なことをすると批判の嵐になりそうだ。

対応に悩んでいると、背後から陽気が声が聞こえた。


「お困りですかー?」


「遅いよ華蓮、同じ学校なのに何してたの?」


「いやぁ屋上がぽかぽか陽気で」


くっ、なんて羨ましい。

もし私が同じ状況だったら、間違いなくグリ公に叩き起こされている。


「どうでもいい話してる暇あったら、作戦の一つでも練るべきだと思うよ」


ほら、また小言が出た。


「んじゃ、行きますか」


「作戦はー?」


「華蓮がパッと人質助けて、私がズバンと片付ける」


「りょ」


2人は怪人に正面から突っ込んでいった。


(そういうのは作戦とは呼ばないんだけどな……)


ただ、グリ公はもう止めなかった。

この2人を止められる存在などいないのだろうと理解していた。



「……む、来たな魔法少女め」


怪人がルージュたちに気づくと、報道のカメラも2人に注目する。


「紅いルージュは血統書 魔法少女ルージュ 見参ッ!」


「異世界から可憐に転生 魔王少女ケアレン 降臨ッ☆」


世界が彼女たちを必要とする限り、魔法少女ルージュと魔王少女ケアレンは戦い続ける。

鮮烈で、気高く、そして誰よりも強く――……。


ルージュと華蓮の活躍はまだまだ続きますが、物語として語るのはこれで最後になります。

最後までお読みいただきありがとうございました。



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