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003 バレた魔法少女。

「呆れて何も言えないよ」


合流したグリ公の視線が痛い。


「自分だって何の成果も得られなかったくせに」


「だって夜だし、元の世界と違って灯りが少なくて……」


たしかに、今いるのは城下町だが現代の日本と比べたら街灯の灯りも弱い。

……ていうか、日本だとしても夜だと地形把握は無理な気がする。


「ま、あのまま城にいても仕方がなかったし、これからどうするかが問題よ」


被害者はいなかったんだからそんなに大事にはならないよね……多分。


「何かアテがあるのかい?」


「あると思う?」


「……聞いたボクがバカだったよ」


「グリ公のバーカ」


イラッとしたグリ公は翼を広げ飛翔する。


「とにかく! ボクはボクで情報収集するから、そっちはこれ以上騒ぎを起こさないでよね」


そう思うならそんなに声を荒げないでほしい。

鳥って短気なのかな。


ちなみにグリ公は私の居場所を常に把握できる。

魔法少女の使い魔とはそういうものらしい。

プライバシーをもっと尊重してほしいよ。


「さて、とりま変身解除っと」


そして髪型を変え伊達メガネをかける。

ふふふ、私は変身前の姿を城の人間には一切見せていない。

つまり元の姿なら何の問題もなく城下町ですごすことができるのだ。


「今どき魔法少女も賢くないとね」


とはいえ、人の身で情報を集めるには遅い時間である。

こういう時は一先ず泊まる所を……


「……お金なくね?」





とりあえず宿の前まで来たものの、仕方なくその場に座りこむ。


「結局世の中金なんだよね。愛があればーとか金に困ったことのない人間の戯言だよ」


時折通りがかる人の視線が気になる。

可哀想で可愛い子がそんなに珍しいのか。

でも今は目立ちたくない……場所を変えよう。


「こんなとこで何してんの?」


立ち上がろうと思った矢先に声がかかった。

一瞬補導かと思って警戒したが、相手も自分と同じぐらいの歳に見える。

暗めの金髪にウェーブがかった髪……ギャルだ、異世界にもギャルっているんだ。


「いやーちょっとお金落としちゃって……みたいな?」


元から持ってないけど。


「ふーん……ところでさ、その制服って……」


「制服……?」


自分の服装を見て、ルージュは一瞬で冷や汗が止まらなくなった。

こんなものもちろん異世界にあるわけがない。

明らかに異質……こんなに似合ってるのに。


「これはそのぉ…………ん?」


良く見るとギャルも制服を着ている。


着こなし文化がギャル独特なので気づくのが遅れたよ。

でもこれは好都合……私は普段からクラスでも目立たないほうだ。

いっそのこと存在感の薄いクラスメイトということでいこう。

魔法少女だとバレるよりそっちほうがまだマシだ。


「それって西中の制服っしょ? 魔法少女ルージュって同じ中学生なんだ」


こいつ――――核心まで全部いきやがった。


何でバレたの?

ギャルの癖に名探偵なの?

そもそも何で学校までわかるのさ。


「に、ニシチュー? ちょっと何言ってるかわかんないなー」


「胸のとこ校章入ってるよー?」


……たしかに入ってるね。


「たしかに私は西中の生徒だよ……ただの西中の女生徒だよ!」


「すごい強調するねー」


嘘をつくなら堂々と、そして大胆に……こういう時は胸を張れ。

どうせ相手はカマをかけているだけだ。


「でもあーしの学校と違う制服があるとしたら、あの時巻き込まれたルージュしかいないんよねぇ」


――――このギャル天才かッ!

私は詰んでいたんだ、初めから……。


「なんという推理力……」


「いや普通じゃね?」


しかも謙虚!


「てかお金ないんでしょー? あーし金持ってるからさ、とりま宿いこーよ」


さらに気も利いてる!

オタクに優しいギャルは都市伝説だけど、魔法少女に優しいギャルは実在したんだ……。


………………


…………


……


「ハッ、これってひょっとしてお持ち帰りされてる……? 私そんな安い女じゃないんだけど!」


「ルージュっちさぁ、部屋までついて来ておいてそれはもう遅いよ」


連れて来られたのは極々一般的な宿だが、現代の日本と比べたら安宿以下である。


「ルージュっちて……今変身してないんだからその呼び方はやめてほしいんだけど……」


変身を解いた意味がなくなってしまう。


「だって本名知らないし。ちなみにあーしは桜田華蓮さくらだかれん。華蓮って呼んでいいよ」


「私は……」


正体を知られた上に本名まで晒すほど愚かではない。

こういう時は、嘘と真実を混ぜておけばバレにくいものだ。


「私は山田紅葉やまだくれは。紅葉でいいよ」


ふふふっ……苗字と名前、どちらが偽りか気づける者などおるまい!


くれたんさぁ、制服に赤嶺って書いてあるよ?」


「…………はい、赤嶺紅葉あかみねくれはです」


畜生……私の個人情報は丸出しだったのか。


ルージュは、もはやくれたん呼びを咎めることもできなかった。


「そういえば、何でお金持ってたの?」


私は無一文だというのに……というかどうやって城の外に出たのだろう。

派手な見た目だし、こっそり抜け出すのは難しいはずだ。

……ん? 派手な見た目……ギャル……そういうことかぁ。


「ごめん、やっぱり答えなくていいや。たとえ汚いお金でも、そのおかげで宿に泊まれるんだもんね」


「なんか失礼な勘違いしてるっしょ。これはただお城出る時にちょーっと拝借してきただけだし」


どちらにしろ汚い金じゃないか。

普通に犯罪だし、私まで共犯者にされちゃうよ。


「そうなんだ、ふーん……ところで私たちの関係は一期一会ということでお願いします」


私はまだ清い身でありたい。


「あーしは構わないけど、城出られたのもどこぞの魔法少女が暴れてくれたおかげなんよね。あ、ちな金額的には一生遊んで暮らせるぐらいにはあるっぽいよ」


「私たちズッ友だよ!」


持つべきものは友人である。

たとえそれが今日知り合ったばかりのギャルだとしてもだ。

見た目で人を判断するなんて以ての外だよ。


「一応聞いておきたいけど、華蓮は何で城を出てきたの?」


スクールカーストトップ層なんて城の人間からもちやほやされていた印象しかない。

華蓮もきっと当たりの職業だったに違いないはずだ。


「いや、だって普通に考えてあれって誘拐じゃん? チャンスがあったら逃げるっしょ」


思いのほか常識的な発想だった。


――――――


――――


――


翌朝、紅葉は鳥の囀りではなく、外の喧騒によって目を覚ますことになった。

何か事件でもあったのだろうか。

でも今はそれよりもやるべきことがある。


「おはようございます。本日は、ギャルのスッピンを拝みたいと思います」


小声でつぶやきながら隣のベッドへと忍び足で近づく。


ギャルという人種は総じて厚化粧なのだ。

スッピンはきっとひどい顔に違いない。

さてさて、素顔をご開帳……


「…………許せねぇよ」


頬っぺたに指で触れてみるが、この感触は素肌そのものである。

長いまつ毛も作り物ではなかった。

これじゃあ化粧後とほぼ変わらないではないか。


「化粧なんだから化けろよ!」


「んー、うるさいよくれたん……」


寝起きもなぜか優雅に感じる。

お金もくれたし、ギャルじゃなくてセレブだったのか……。


「ふぁ~……ていうか、なんか外も騒がしくね?」


ここで紅葉はさらに残酷な現実に気づく。

昨日は気づかなかったが、肌着の今だからこそわかった。


「でかい……」


こいつホントに同じ歳なのか。



「ねぇくれたん、兵士がいっぱい外うろついてるけど大丈夫?」


「へーどれどれ」


窓を開け外を覗き込むと、たしかに兵士の数が多い。

街中にも何か貼りだされているようだった。


「んーっとね、城を破壊した国家反逆罪、赤い髪の少女……捕まえた者への褒美は望むままに……似顔絵はちょっと微妙かな」


くれたんアレ見えるんだ、すごい視力してるね」


これぐらいは変身していなくても朝飯前だ。

しかしこれは困ったな。


「どうしよう、褒美は望むままにだってさ」


「当人はどうにもできないでしょ」


ダメなのか……自己犠牲の精神という言葉があるぐらいだからいけるかと思った。


「あーしの手配書とかないの?」


「今のところ見当たらないかな」


お金盗んだ人よりちょっと誤射しちゃった私の方が罪が重いなんて間違ってるよ。


「代わりにうるさいフクロウがこっちに向かってるよ」


「フクロウ……?」


多分フクロウと言った方が良かったかな。


「大変だよルージュ! 国境まで封鎖されちゃって……え、その子誰?」


グリ公は即座に華蓮を警戒した。

けっこう人見知りするタイプだったんだね。


「警戒しなくても大丈夫、お金くれた人だから」


くれたん紹介雑すぎー」


ケラケラ笑う華蓮に、グリ公はただただ困惑した……。

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