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まぁ・・・そんな道もありますよ・・・

作者: 二天

――あなたの自慢はなんですか?


「俺の自慢・・・うーん、半袖半ズボン生活12年!!」


――あなたのダメなところはなんですか?


「ダメなところ・・・ダメダメすぎて言い切れません」


――最後に、あなたの未来はどんな未来だと思いますか?


「真っ暗です!!」



この世に生まれて十何年、俺は変な人間になっていた。

たった今、自分らしさを見つけるため、自分で自分に聞き、問うてみたのだが、結果はご覧の通りである。

「ダメじゃん」そういわれても仕方が無い。自分でさえそう思うからである。

将来の夢も持たず、考えも子供で知恵もやる気も無い。

そんな俺である。

と、同時にこの世の純粋で美しい空気を吸い、その空気を最も汚い、最悪なものに変換させている本人でもある。ある意味犯罪者だろう。


さて、空気破壊人、俺はどういうわけか今、散歩にはまっている。

ひとつ世界が厳しかったら牢屋行きな行為である。俺が散歩だなんて、他人からしてみれば迷惑千万。一生暗い地面の中で眠ってろ。と言いたくなるだろう。

・・・でもはまっているのだ。仕方が無いじゃないか。

人間誰にだって1つくらい趣味があるものである。俺にとっての散歩は人生で一番大切な行事なのだ。


そんなわけで、さっきの自己質問の結果で溜まったストレスを解消すると言う理由も含めて、今日も散歩に出ることにした。


「いってっきまーーっす!!!」


玄関を出て、上を見上げると空が、スクリーン一面に美しい水色で描かれているではないか。

ああなんて綺麗なんだ。空気破壊人が全力で努力しても決して破壊できないだろう。美しい。

俺は感動しながらグレーの道を歩いていく。そのとき全く前を見ていなかったので何度犬の糞をふんずけそうになったか、何度電柱に体を特攻させたか、数え切れない。



感動と、痛みと、泣きたくなる様な思いを楽しみながらしばらく歩いていくといつの間にか周りは一面田んぼになっていた。そこで一人のクソ坊主に会った。


「おおい、タニシやろう!」


クソ坊主が元気な声で叫んだ。

恥ずかしい事ながら俺のあだ名である。クソ坊主が命名した。

俺とクソ坊主は「何故か気づいたら話すようになっていた」、と言う仲であり、お互いに名前も知らないし友達でもないはずである。もう1つ言えば、歳だって向こうは7歳くらい年下だ。


クソ坊主は、おそらく人ん家の田んぼであろう、その田んぼに入り、なにやら何かを取っている。


「なんだぁ!クソ坊主、今日は何してんだ?」


「あぁ?タニシ取ってんだ、あんたにぴったりだ、あはは」


クソ坊主め・・・ひとを馬鹿にするのもいい加減にしろ。大声で叫びたかったが我慢し、心の中で思いっきり罵った。

と言うのは、もしここで叫んでしまったらクソ坊主は怒って田んぼの中の泥を投げてくるだろうと思ったからである。

ここで神聖な行事を泥に汚されては溜まったもんじゃない。だから心の中で罵ることにしたのだ。この発想は天才的な発想だと思うのだが、どうだろう・・・


「タニシかぁ・・・まぁせいぜい沢山取れるように頑張ってくれたまえ」


「おう、あんがとな。そいじゃ」


そう言って俺達は別れた。俺は彼が見えなくなったとき、思いっきり叫んだ。


「タニシに食われちまえーーーーーーー!!!」




・・・さて未だに田んぼ風景だ。クソ坊主と別れて20分は経っただろう。

温かい風、田んぼの独特な牛糞の香り、水色で塗られた空。

気持ちがいい。まるで心が洗われていくようだ。

俺はなんとなく、なんとなくだが、なんとなく、今の自分の生き方を見つめた。


――俺、どんな人間だろう・・・


――実はこの空のように澄んだ心を持っていたりして・・・


――牛糞みたいにくっさい手使って人を困らせたことなんかないよな・・・


――純粋だ


信じがたい発言だが、まぁ俺はそういう風に思う。

「ただの自己満足だろ」・・・うるさい、今俺は非常に気持ちがいいのだ。

「自分を振り返る」という自己催眠とまわりの美しい景色の中である。俺は天国に旅行しているような気分を味わっているのだ。






あれ?ふと思ったが山の中ではないか!!

どうしてここに?あまりに催眠が強くて無意識で歩いていたんだ・・・そしたらこんなところに・・・

いけない、戻らなくては・・・


おおあれは蛇!!


あ!いて!!蚊に刺された!!


うわ!!あっぶねぇ、崖からおちっとこだった


・・・


・・・





いやいやひどい目にあった。

まさか山の中に行ってしまうとは。

まぁ、多少いろんな目にあったが、無事に山からでることができた。ほんとに良かった良かった。


さて、ここはと言うと周りは家が建っていて木々などの緑がなく冷たい景色だ。それらを眺めてもう家の近くであることが分かった。

・・・なんだか寂しい気持ちだ。


「あれ?ああ!!おおぅい」


いきなり後ろから高い声がし、驚いて振り返った。見ると、(しろ)ちゃんがちっこぃ犬を連れてそこにいた。

あ、白ちゃんというのは恥ずかしいことに俺の好きな人。

白ちゃんの白は苗字でもなければ名前でもない。じゃあ何かと聞けば気持ちよく答えよう・・・それは俺の思う彼女のイメージカラーである。彼女はぜったい白!!


「あ、やっぱり!!何してるの?」


綺麗な声だ。ついついうっとりしてしまう。・・・しかしここはかっこつけなければ!!


「え?ああ・・・小鳥達と話し合いながら平和に散歩しているのさ」


「平和に散歩」と聞いておかしい!!と思った方は正しい!!今まであまり良い体験をしていないのだから・・・

しかしここは同情して応援をしてください!!俺今一生懸命なんです!!


「小鳥と?へぇー面白いなぁ・・・あたしはねぇ愛犬と散歩」


「おお!!これはこれは!!あまりの小ささに気づかなかった!!可愛き愛犬さん、どうも」


「ねぇかわいいでしょ、ほんっとにかわいいでしょ」


そのとき、俺は犬を眺めたのだが、ひどいったらありゃしない。このクソ犬め、俺に向かって思いっきり牙を剥いてやがる。

・・・しかし白ちゃんの前でそんなこと、顔に表すのは持っての外。演技を続けなければ・・・


「ほんっとに強そうで・・・たくましそうな犬だ」


「この子、メスなんだけど・・・あ、そろそろ行かなきゃ!じゃあね」


「あ・・・うん、ばいばい」


俺の演技、いかがだっただろうか?あまーく採点してほしいな・・・

まぁ、俺は彼女の後姿を見送った。自然と目が細くなっていくのはきっと、彼女があまりに可愛くてうっちょりしてしまうからであろう。うっちょりうっちょり・・・

彼女はだんだん遠くなる。俺はだんだん好きになる。

そんな幸せな時間を味わっていた時だった。


あ・・・


そんな・・・


俺は一気に目が開き、口が開き、ついでに鼻も開き開き・・・


いきなりどうしたかと言うと・・・

彼女を目で追っていったら・・・彼女の先に男の人がいて・・・

彼女はその男の人と仲良く歩き出して・・・

手だってつないじゃって・・・





・・・俺は白くなった・・・


「・・・これからあの人のこと、黒さんと呼ぼう・・・」


あの人とは誰か・・・

そんなこと聞かないでくれ・・・



俺はゆっくりと歩き出した。自分の家に向かって・・・



――俺、これから良い人生を過ごそう・・・


――変な友達作って、一緒に田んぼやら川やら溝やら、いろんなとこへ行こう。


――時には迷うこともあるだろう、そんなときは思いっきり迷って思いっきり心に傷を負いながら精一杯そのときを乗り越えよう


――そして良い人に出会って、その人がばあさんになった時、俺の死に顔をしっかりと見届けてもらうんだ。




――散歩はやっぱいいな。


家に着き、ちょっと上を見ると屋根やら壁やら、全体がもうぐっちょぐっちょに歪んでいた。

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