三日月ネックレス
バイト先の同僚、三上さんの誕生日が近いと小耳に挟んだ。
思いきってプレゼントを買って、渡そうと決意した。けど女の子に贈るプレゼントって難しい!
散々悩んだ挙げ句、本人に探りを入れることにした。
お客さんが引けた時間帯の、カウンター奥で洗い物をしながらの雑談タイム。
「三上さん、いま欲しい物とかってある?」
探りというより直球になってしまった。
「う〜ん、すぐ思いつかないなあ……あっ、三日月ネックレス。あれ可愛いよね! 三日月って、名前に昔から親近感があって」
名前? 三上さんの下の名前は、ルナだ。月の女神の名前だ。
とそこまで頭を回転させたとき、お客さんの来店があって、三上さんは慌ててホールへ出て行った。
知りたい情報は聞き出せた。あとはプレゼントを買って、渡すのみ!
一口に『三日月のネックレス』といっても、デザインも価格も様々で悩んだ。
お高いブランドものは手が出ないし、かといってあんまり安っぽい物も失礼だ。
お財布と顔を突き合わせ、三上さんの姿を思い浮かべながら、これだという一品を選んだ。
イエローゴールドの三日月に、小さなジルコニアの星がキラリと光るネックレス。
「三上さん、お疲れさま」
誕生日の前日、バイト上がりの三上さんがお店から出てくるのを待って呼びとめた。
「あの、これ誕生日プレゼントっ。いつもお世話になってるお礼」
ギフト仕様の小さなアクセサリーポーチをポケットから取り出して、三上さんに手渡した。
「ええっ、いいの? ありがとう。開けていい?」
「うん」
「わっ、かわいいネックレス! あっ、三日月だ」
ネックレスを手に持った三上さんが、ゆらゆら揺れる三日月に感嘆した。
「うん、欲しい物って聞いたから。芸がなくてごめんね」
「えっ、違う違う。私が言った『三日月ネックレス』ってのはね。行こう、お店」
「え?」
三上さんに手を取られてバイト先へ戻った。窓際に飾っている観葉植物のポットを指して、三上さんが言った。
「この子。三日月ネックレスっていうの」
説明されて見れば、多肉植物の葉はぷにぷにぷっくりで、
「三日月の形だ。初めて知った。ごめん、勘違いして」
「ううん、ネックレスもすごく気に入ったよ。ありがとう」
店を出て、駅まで一緒に歩いた。三上さんの首元で揺れる三日月ネックレス。
夜空には綺麗な月が浮かんでいた。