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総会屋のお仕事

(5)総会屋のお仕事


 スーツと髪型を極めた武たち。ちなみに子供が株主総会に出席するのは違和感があるとのことで、武は口ひげを付けてサングラスを着用させられた。

 準備が整った武たちはコダマに連れられて株主総会に出席した。


 株主総会は古い貸ホールの会議室で行われるようだ。会場には100人くらいが座れるパイプ椅子が並べられている。

 武が目をやると、会場の最前列には角刈り、パンチパーマ、スキンヘッド、オールバックの男性が10人並んで座っていた。


 コダマは小声で「最前列のやつらを見ておいて。あの真ん中のオールバックがダグラス・ピーチだ」と武に言った。


 武がオールバックを見ていると、真後ろの席に座っていた女の子と目が合った。


―― あれ? この前の美容院の女の子じゃないかな?


 たしか、名前はアリスだったよな・・・

 女の子が株主総会に参加しているのに違和感があったから、武はコダマに聞いた。


「あの女の子も株主なの?」


「あー、あの子ね。あの子はダグラスの娘だ」


「ダグラスの娘?」武はビックリして大声を出した。


 武の声が聞こえたのだろう。アリスは武を睨みつけた。


 美容院で会ったときから可愛い女の子だと思って意識していたのだが、コダマから聞かされた事実は衝撃的だった。


 ダグラスの娘・・・つまり武の敵だ。


「へー、可愛い女の子ね」とお菊さんは嬉しそうに武に言う。


「別に・・・」


「あー、照れちゃってー。武くんは分かり易いなー」


「そんなんじゃないよ。アイツは僕たちの敵だよ!」


「何それ? ロミオとジュリエットみたいね。愛し合う二人は敵同士。なんちゃってー」


「違うって・・・」と言いながらも、武の顔は紅潮している。


 お菊さんが散々武をいじり倒した後、株主総会はスタートした。

 開場されてから株主がパラパラと集まってきたものの満席には程遠い状態だ。


 司会が始まりの挨拶を告げる。

「それでは、本事業年度の株主総会を開始いたします。議事に入る前に、まずは代表取締役社長の〇〇からご挨拶をさせていただきます」


 社長が話し始めると「バカヤロー!」「帰れー!」などの野太い野次が最前列から聞こえた。社長は野次を気にせずに話しているものの、野次の音量の方が大きい。

 社長の声は野次にかき消され、株主には全く聞こえない。



 ここで、念のために説明する。まず、総会屋には2種類ある。

 1つ目は『与党総会屋』と呼ばれる総会屋だ。与党総会屋は株主総会にサクラとして参加し、会社の説明に「原案賛成!」「異議無し!」「議事進行!」と言って、株主総会の進行を無風で終わらせる者たちだ。

 もう一つは『野党総会屋』と呼ばれる総会屋だ。野党総会屋は株主総会を荒らすことを目的としている。株主総会で無意味な発言や質問などを繰り返して議場を混乱させるのだ。野党総会屋は株主総会が進まない状況を作り出すプロだ。株主総会を円滑に進めるためには、会社は金銭を支払って野党総会屋に大人しくしてもらう必要がある。


 ダグラス・ピーチのこの株主総会での立ち位置は野党総会屋。会社がダグラスたちに金銭を支払わなかったから株主総会で暴れているわけだから、会社がダグラスに金銭を支払えば直ぐに大人しくなる。



 社長や司会の声が全く聞こえないまま進行する株主総会。それを迷惑そうに見ている他の株主たち。


「カオスだね」と武はコダマに小さく言った。


「そうだね。もうちょっと見ておいて。会社の総務部がダグラスのところに行くから」とコダマは言った。


 武が見ていると、男性がダグラスのところに行って封筒をいくつか渡している。封筒の中には現金が入っている。

 ダグラスは封筒の中身を確認した後、最前列のメンバーに何か言って会場を出ていった。


 その様子を見ていた猫は「アイツ、金を払いやがったぞー」と騒いでいる。



 司会が「それでは、第1号議案の決議に入ります」と言った瞬間、最前列から「原案賛成!」と大声が聞こえた。以降の決議についても「原案賛成!」「異議無し!」と最前列から大声が聞こえた。


 こうして、株主総会は終了した。


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