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【番外編】ウィルジアと小鳥

 ウィルジアが十二歳の時の話だ。

 すっかり王宮から抜け出して王立図書館へと行く日々が日常になり、家族が何も言わなくなった頃。

 その日もウィルジアは、王立図書館までの道を歩いていた。

 冬が深まった季節、随分と寒くなり、鼻頭を赤くしながら外套をかき寄せつつまっすぐに図書館を目指す。


「あれ」


 ふとウィルジアは、道の途中に鳥がうずくまっているのを見つけ、足を止めた。

 こんな寒い日に、しかも王都でも中心部の人が多い場所に鳥がいるなんて珍しい。近づいてみたウィルジアは、あることに気がついた。


「この鳥……怪我してる」


 白い小鳥は片足を怪我していて、血が滲んでいた。

 ウィルジアは少しためらったが、放っておくことができず、そっと手のひらに乗せる。抵抗せず両手にすっぽりおさまった小鳥を手に、ウィルジアは王立図書館までの道を小走りした。


「おはようございます」

「おはよう……どうしたんだその鳥は」


 王立図書館に着いたウィルジアが地下書庫に入って行くと、既に来ていたジェラールが開口一番で尋ねてくる。ウィルジアは鳥の収まった両手を突き出し、見せた。


「怪我してるみたいで、放っておけなくて」

「動物は立ち入り禁止だぞ。よく見咎められなかったな」

「人が多い入り口では、ローブの中に入れて隠してたから」


 ウィルジアの言葉を聞いたジェラールは眉根を寄せて顔を顰めた。


「どうするつもりだ?」

「ど、どうしよう」


 とりあえず見過ごせなくて連れてきたが、鳥の世話の仕方など当然知らない。


「王宮に連れて帰ったらどうだ? 誰か鳥の世話の方法を知ってる人がいるかもしれないだろ」

「だっ、ダメだよ。父上と母上にみられたら捨ててこいって言われるだろうし、それに……」

「それに?」

「……エド兄上に見つかったら、羽をむしられて食べられちゃうかもしれない」

「…………」


 ジェラールは難しい顔をしたまま小鳥を見つめていた。鳥はふいに顔を上げると、ジェラールを見て、か細い声で「ぴぃ」と鳴いた。


「!」


 弱々しい声で鳴かれ、つぶらな黒い瞳で見つめられたジェラールは、小鳥から目を逸らした。


「上の閲覧室に、動物の飼育方法の本があるかもしれないから、探しに行くぞ」

「! う、うん!」


 友人の提案にウィルジアはぱあっと顔を輝かせ、書庫を出ようとするジェラールの後をついて行こうとした。


「鳥は置いていけ。見つかったら面倒だろう」

「あ、うん」


 ウィルジアはどこに降ろせばいいだろう、ときょろきょろし、自分の机の上に栞や結び紐などといった雑多なものを詰めている小箱を見つけ、とりあえずそれの中身を出して空っぽにし、小鳥をそこにそっと下ろした。鳥はみじろぎもせずに大人しくしている。それからジェラールの元へと駆け寄る。


「お待たせ」

「行くぞ」


 書庫を出て、閲覧室へと向かう。

 閲覧室は人が多いのでウィルジアはあまり得意ではない。ほとんど背丈が変わらないジェラールの背後に隠れるようにこそこそ歩いて移動し、目当ての書架にたどり着く。

 二人で手分けして、必要な情報が載っている本を探した。


「ジェラール、あった」

「俺の方もだ」


 二冊、動物の飼育や生態についての本を抜き出し、それを持って再び地下書庫に戻る。

 机の上では相変わらず小鳥が小箱の中でじっとしていた。

 ウィルジアとジェラールは二人がかりで持ってきた本を読んで処置方法を調べ上げる。


「患部を清潔にして木綿の布を当てて止血するしかないみたいだな」

「こっちには体温が下がってるかもしれないから保温した方がいいって書いてある」


 ひとまず二人は、得た知識を使って、傷口を綺麗にしてからウィルジアが持っていたハンカチを当てて止血し、保温と言ってもどうすればいいかわからないので書庫に大量にある羊皮紙を細かく割いて小箱にいれてあげた。


「治るまでどれくらいかかるだろう……」

「さあ……十日位か?」

「それまで面倒みないと……」

「餌とか籠とか、どうするつもりなんだ」


 ウィルジアはジェラールの言葉に、彼の方を向いた。ジェラールは腕を組んでウィルジアを見たまま黙りこくっている。


「…………」

「…………」

「ぴぃ」

「…………」

「…………」

「ぴぃぴぃ」

「僕、鳥籠、買いに行くよ」

「お前一応王子なんだから、一人で王都をウロウロしたらダメだろう」

「護衛がいつも後ろにくっついてきてるから平気」

「だとしてもだな……わかった、俺も行く」

「ほんとに? ありがとう!」


 そんなわけで二人で王都に買い物に行き、鳥籠を買うと、ついでに餌になりそうなパンも買って書庫に戻る。

 室長のジェイコブは若い二人の動向に別段何の興味も示さなかった。ただ、「鳥をしばらくここで世話したい」と言ったら、


「フンが本につかないように」とだけ言った。


 ウィルジアとジェラールは二人で小鳥の世話をする。

 ウィルジアは朝、王宮でこっそり自分の朝食からパンをくすねてハンカチで包んでポケットに入れて、それをもって図書館まで走る。

 二人の世話の甲斐があってか、小鳥の怪我はどんどん良くなり、十日も経つ頃にはすっかり元気になった。

 鳥籠の中でぴいぴいと鳴く鳥。


「そろそろ自然に帰す頃だな」

「うん」


 二人はバレないように鳥籠をローブで覆い隠すと、抱えてそそくさと図書館を出て裏手の庭に出る。

 木立の影に行くと、籠の扉を開けた。

 扉から出た鳥は、「ぴい」と鳴きながら飛んでいった。


「行っちゃったね」

「ああ」

「元気になってよかった」

「そうだな」


 木立の間に消えていった鳥の行方を追いながら、二人は図書館に戻っていった。



「あ、鳥だ」


 ウィルジアが王立図書館から自宅である森の奥の屋敷に帰ってきたところ、屋敷の近くで鳥がうずくまっているのに気がついた。カラスだった。カラスはウィルジアを見上げると、一声。


「カァ」

「あー、怪我してるのかな」

「カァカァ」


 そうだとでも言いたげに、首を上下に動かす。

 まだ小さいので子カラスだろう。愛馬のロキから降りたウィルジアは、子カラスを抱き上げると、ロキの手綱を引いて門扉を開け屋敷の敷地内に入る。


「おかえりなさいませ、ウィルジア様」

「ただいま、リリカ」

「その子は?」

「そこで拾った。怪我してるみたいだから、治るまでうちで面倒みてもいいかな」

「本当ですね、足が……これは骨折です。自然に治るのを待つしかないので、その間お屋敷で餌をあげたりしましょう」

「見ただけでわかるの?」

「はい!」

 

当然です、と言わんばかりに頷くリリカにウィルジアは苦笑する。


「リリカはすごいね。昔同じように怪我した小鳥を拾ったことがあったんだけど、色々調べたり大変だったんだ」

「ウィルジア様はその頃から変わらずお優しいんですね。お任せください、私、この子のお世話を立派にしてみせます」

「ありがとう。拾ってきたの僕だし、手伝うから」


 リリカとウィルジアに甲斐甲斐しく世話を焼かれた子カラスはひと月ほどで無事に骨折が治り、外に放たれたのだが、屋敷が気に入ったのか度々顔を見せにくるようになったのだった。


外伝にあまり関係ない話ですが、思いついたのでこちらにアップしました

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初に、水でしょうね。
[一言] ウィルジアさまとジェラールの12歳の頃・・こちょこちょとかわいらしかったんだろうなぁ~(*^-^*) そして、今ウィルジアさまとリリカのいきものががり・・ 早朝から、3人のやさしさと一生懸命…
[良い点] 甲斐甲斐しく世話をするのが、可愛いですね。 そして、からすの骨折まで、見抜くとは、流石スペシャリストリリカ! ほのぼのしました。
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