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第75話 設定を考えよう

 ウィルジアがリリカと共に下町の万霊祭に行くことになった。


「ですが、そのままのお姿で行くわけにはいかないので、何か考えないといけませんね」

「そう? なんかダメかな」

「ウィルジア様は王族なので肖像画などが出回っていて気がつかれる可能性がございます」

「僕の肖像画なんて多分一枚も存在してないと思うよ。リリカ、見たことある?」

「言われてみれば、ございませんね……王妃様のでしたらたくさん拝見しているのですが」


 おばあちゃんの家には王妃様の肖像画がたくさんあったので、見たことがあった。その他の王族の方の肖像画も一度は見たことがある。しかし思い返せばウィルジアの肖像画を目にしたことはなかった。


「前の髪型の僕を絵に残したいと思う人なんて、いないからね。それに、そういう話が出ると逃げ回ってたし」

「……それでも、下町にそんなに綺麗な金髪の人はいませんし、お顔立ちが整っていらっしゃるので目立ちますので、変装の必要があると思います」

「そっか。じゃあ、変装していく」

「下町でよく見かける色合いのかつらと、眼鏡を用意しますので、当日はそれを着用していただいてもいいですか?」

「うん」


 リリカの言葉にウィルジアは素直に頷いた。


「見た目はなんとか誤魔化せそうですが、ウィルジア様は所作が優雅なので、ちょっとした動作でバレる可能性があります」


 リリカが最も懸念している点である。

 身についている所作というものは誤魔化しようがない。下町に暮らす人々に比べ、ウィルジアはどうしたって仕草が洗練されている。歩き方やものを置くとき、食事動作などには隠しきれない高貴さが滲み出てしまうだろう。

 しかしリリカの心配に、ウィルジアはあっさりと言ってのけた。


「なら僕は、ルクレール公爵家で働く従僕という設定にしたらどうだろう。従僕は人前に出ることが多いから、言葉遣いも丁寧だし所作が洗練されていてもおかしくないよ」

「じゅ、従僕ですか!? ウィルジア様が!?」

「うん。ルクレール公爵邸で働く、従僕のウィルということにしよう」

「えぇ……!?」

「リリカも僕に敬語を使わないで欲しい。呼び捨てでウィルって呼んで」

「ええええ……!」

「じゃあ早速、練習してみよう」


 ハードルの高すぎる要求に、リリカは困った。

 常日頃敬愛しているご主人様を愛称で呼び捨てするなんて、恐れ多すぎる。

 しかし本名で呼び、敬語で話しかけたら一発で正体がバレてしまうし、ウィルジアが提案した通りにするしかないだろう。


「ウ、ウィル……様」

「様はいらないよ」

「ウィル……さま」

「うーん」


 ウィルジアが困ったように眉尻を下げる。リリカはもう一度、と思い、ウィルジアを見つめ、そして思い切って言った。


「ウィルッ」

「あ、いいね。いい感じ。もう一回呼んでみて」

「……ウィル……」


 愛称で呼び捨てにすることに罪悪感を抱きながらもリリカがもう一度呼んでみると、ウィルジアは満足そうな笑みを浮かべている。


「リリカにそう呼ばれると、なんか新鮮で嬉しい」

「…………!」

「何ならずっとそう呼んでもらいたいけど……」

「そ、それはちょっと……落ち着かないです」

「…………」

「…………」

「じ、冗談だよ。ごめん」

「いえ、すみません……」

「…………」

「…………」


 いたたまれない。沈黙がいたたまれなかった。

 名前を呼び捨てにするだけでこの状態。

 当日は敬語もなしで、対等に接する必要がある。

 もしかして万霊祭にウィルジアが行くというのは、ものすごくハードルが高いことなのではないだろうか。リリカはそのことに気がつき、愕然とした。

 しかし今更「やっぱりナシにしましょう」とも言えず、何よりも来て欲しいと思っているのは事実なわけで、それならばもう、覚悟を決めてウィルジアを呼び捨てにし、敬語も使わず一日を過ごすしかない。

 リリカは拳を握って、ウィルジアに宣言する。


「ウィルジア様、私……絶対にウィルジア様の正体がバレないように振る舞いますので、そばで見守っていてください」

「う、うん、わかった」


 並々ならぬ気迫を漂わせるリリカを前にして、ウィルジアはただただ首を縦に振った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 本名に近ければ咄嗟の時に呼びやすいし応えやすいけど、日常に戻った時に愛称で呼んじゃうデメリットもあるんだよね
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