表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/114

第58話 ウィルジアの苦手な家族

「ウィールーどこだー?」


 王宮内の図書室で、模造刀を振り回しながらエドモンドが闊歩している。

 六歳のウィルジアは膝を抱えて本棚の影に隠れ、どうか兄に見つかりませんようにと心の中で全力で祈っていた。


「なんだー、今日はここにはいないのかな……おーい、ウィールー?」


 さっさとどこかへ行ってくれと思いながら、物音を立てないようにして隠れ続ける。

 膝頭に顔を埋めながら、この兄はどうして自分に構うのだろうと考えた。

 ウィルジアが誰よりも剣術が苦手で、絶望的にセンスがないことを知っているくせに、毎日律儀にウィルジアを探しては剣の相手をさせようとする。

 明らかに格下の自分と手合わせをして、何が楽しいのかさっぱりわからない。

 九歳のエドモンドは、すでに軍部に在籍する騎士と手合わせしてもいい勝負をするという噂だ。ならば、そっちに行っていればいいじゃないかとウィルジアは心底思う。


「ウィールー」


 段々とエドモンドの声が遠ざかっていくのを聞き、ウィルジアはほっとした。

 どうやら今日は、手合わせをしなくても済みそうだ。そう油断したのがいけなかった。本棚に上手く収まっていなかった一冊の本がウィルジアの手に触れ、バサリと落ちた。

 しまった、と思った時にはもうすでに遅い。

 軽快な足音が近づいてきて、逃げようと思って腰を浮かせたウィルジアの肩を背後からガシッと掴む。


「なんだ、ウィルいるじゃん」

「エドあにうえ……」


 ウィルジアは背後から肩に手をかけ圧迫してくる兄の顔を見た。

 母譲りの強気な美貌を持つ兄は、赤い瞳をにぃっと細めて歯を見せて笑った。


「おにーさまが呼んでるんだから、ちゃあんと返事しないとダメだろっ、なっ?」


 その顔はとても美しいのだが、ウィルジアにはまるで絵物語に出てくる魔王にしか見えない。


「さ、剣術稽古しよーぜ!」

「いっ、いやだよぉ!」

「ずっと引きこもって本ばっかり読んでると、いざという時戦えないし体が鈍るだろ。行くぜ」

「いやだってばあああ」


 全力で拒否するウィルジアに全く構わず、エドモンドは力任せにウィルジアを引っ張って部屋の外へと引き摺り出す。別に筋肉質ではない兄の、一体どこからこんな剛力が出てくるのか。それとも単にウィルジアが虚弱すぎるのか。


「あにうえっ、僕は剣なんて使えなくったって構わないから! だからはなしてっ」

「なんだよ、おにーさまの言うことが聞けないってのか?」


 兄は赤い瞳を胡乱に細めてウィルジアを見た。それから肩に手を回し、抱き寄せると、耳元で囁く。


「おにーさまが不出来なウィルのために剣術指南してやるって言ってるんだから、ありがたく思えよ!」

「いらないっ、全然求めてない!」


 しかしウィルジアの願いなど聞き届けられるはずもなく、問答無用で外へと連れ出されると、文字通り一方的に叩きのめされた。


「あにうえっ、もうやだよぉ」

「相変わらずウィルは弱いなー」


 芝生に寝転び伸びているウィルジアを見下ろし、模造刀を肩に担ぎ笑う兄は、悪魔にしか見えない。


「うぅ……こんなの手合わせでも剣術指南でもないよ。ただのいじめだ」

「なんだと? 弱いウィルを鍛えてやってんだろーが」


 エドモンドの目はマジである。自分がウィルジアをいじめているとは、本当に思っていないのだろう。この意識の差は山より高く海より深い。


「また明日もやるから、逃げるなよ!」


 エドモンドは爽やかに笑ってそう言いながら去って行った。

 ウィルジアは立ち上がると、よろよろと王宮内に戻る。


「やだなぁ……明日もやるのかなぁ……」


 教師との剣術稽古だけでも嫌なのに、加えてこの兄の蛮行。

 ウィルジアは明日を思うだけで、半泣きになった。

 きっとこの兄とは、一生相入れることはないだろうとウィルジアは幼いながらに思ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


万能メイドと公爵様の楽しい日々


11月2日発売!!


画像タップで講談社ラノベ文庫詳細ページへどうぞ!

書籍版は本編大幅加筆+書き下ろし番外編3本収録で、
なんと約4万字80ページほどウェブで読めない話が読めます。

i595023
― 新着の感想 ―
[一言] メイドに鎧袖一触されてザマァされろ。
[一言] あーこれは弟からすれば一生糞兄でしかないやつだ
[一言] ホラーじゃねーですか! 名前を一文字一文字伸ばして呼びながら徘徊して、遠ざかったはずなのに背後から肩ポンされる… ホラーじゃねーですか!前書きに『ホラー注意』を付け足してもいいくらい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ