終話 うちに帰ろう
結局リリカは計十日間も王宮で過ごした。
ウィルジアがリリカの体調を気遣いまくった結果である。
しかしこれ以上王宮にいても、リリカとしては落ち着かない。ずっと働いてきたリリカにとって、やることがないというのは中々に辛かった。
そんなわけでリリカは十日目の夜にウィルジアに切実に訴えた。
「ウィルジア様、私もう十分休ませていただいたので、そろそろお屋敷に帰りたいです」
「そう? もっと居てもいいんだけど……」
「お庭の荒れ具合が心配ですし、アウレウスたちのお世話も自分でしたいですし、お屋敷のお掃除もしたいんです」
「リリカ、働くの好きだよね……」
「それに、ウィルジア様のお世話もしたいです。お料理を作って差し上げたいですし、お洗濯もしたいです。そろそろ髪も伸びてきたので、切らないといけませんし」
「あぁ、確かにちょっと邪魔になってきたなと思ってた」
ウィルジアは自分の前髪を引っ張りながら言う。
「じゃあ、明日帰る?」
「はい!」
ウィルジアの提案にリリカは即座に乗った。
翌朝に国王のコンラッドと王妃のエレーヌへと挨拶をし、「また来いよ!」「待っているわぁ」という国王夫妻の声に見送られ、リリカはアウレウスに乗り、ウィルジアはロキに乗り、王宮を後にした。
リリカは馬上で弾む声を出しながらウィルジアに話しかける。
「久々に使用人服に袖を通しましたけど、やっぱり落ち着きますね!」
「確かに、病院では看護服だったし、王宮ではドレスだったから使用人服姿のリリカを見るのは久しぶりだね」
「お仕事するならこれが一番です。お屋敷に帰ったらまずは何からしようかな。きっと埃っぽくなってしまっているでしょうから、やっぱりお掃除からでしょうか。お洗濯もしませんと」
張り切るリリカにウィルジアは苦笑を漏らした。
「のんびりやればいいよ。どうせ僕とリリカの二人しかいないんだから」
そうしてふと、真顔を作った。
「二人になるのも久々だね」
「そうですね。病院も王宮も人が多かったので」
「リリカと二人の生活に戻れるの、嬉しいなぁ」
ウィルジアの表情は心底嬉しそうだった。
「私も、ウィルジア様とのお屋敷生活が楽しいので、嬉しいです」
ひと月ぶりの屋敷は懐かしく、そしてやっぱり荒れ放題だった。
「あああ、お庭が、お庭が大変なことに……!」
夏の日差しにさらされて生き生きと育った草花は伸び放題で、雑草もそこらじゅうに根を張り茂っている。
ひとまず馬小屋を掃除してからアウレウスとロキを繋いだリリカは、屋敷の中にウィルジアと共に入った。
「思った通り、埃っぽいですね……」
「リリカが来る前に比べたらマシだけどね」
「それでもやっぱり、埃っぽいのは嫌です。早速お掃除します」
「今日は僕も屋敷にいるから手伝うよ」
「ダメですよ。ウィルジア様はご自身のお仕事をどうぞ」
掃除を手伝おうとするウィルジアに向かってリリカはキッパリと言った。
「やりたい事ができたんですよね? お掃除は私のお仕事なので、私に任せてウィルジア様はご自身のお仕事をどうぞ優先してください」
リリカの発言を聞いたウィルジアは、一瞬キョトンとした後に、眉尻を下げて柔らかく笑ってくれた。
「リリカには敵わないなぁ。じゃあそうさせてもらう」
「あとでコーヒーお持ちしますので」
「ありがとう」
そうして屋敷の扉を閉めれば、また再び二人での生活が始まる。
変わっていく日々の中、この屋敷の中では変わらない穏やかで幸せな時間を過ごせればいいなと、二人の胸の中には同じ思いが宿っていた。
外伝までお付き合いいただきました皆様、ありがとうございます。
何らかの形で二人のその後も書きたいな、と思っています。
ひとまず次は商業の世界でお会いしましょう!
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感想も随時お待ちしています。
それでは、またお会いできますことを願っています。





